第3話 サクラの武器、ナオの武器 ② 日本古来の美
幸か不幸か、俺が飲んだくれた土日はずっと布団で唸っていてもサクラの
「すいませんっしたぁ!!!」
「え?」
地面に降り立ったサクラが間抜けな声を出す。とん、と彼女が地面に降り立った音がして、俺は更に額をアスファルトにぐりぐりと押し付けた。
「助けてもらっておいて、更に真っ昼間からオッサンの愚痴呑みにつき合わせて、ほんとすいませんでした!!!」
「ええー……」
「もし許してもらえるなら、精一杯やらせてもらいますんで! どうか俺に、もう一度チャンスをくださいっ!!!」
「……土下座するほどのこと?」
「おうともよ!」
俺が首だけがばりと上げると、サクラは俺の前にいつもの道着姿で仁王立ちしていた。地べたから見上げると、毘沙門天がそびえ立っているみたいだ。
「PVが増えるのは何でも嬉しい! 俺が腹立って悔しいのは、最初のバズを俺の演出じゃなくてアクシデントで起こしちまったからだ! だから俺はちゃんと自分の演出でブシドー・サクラのチャンネルをバズらせたいんだ! 頼むサクラこの通りだ!」
もう一度頭を下げて、勢い余ってアスファルトに思いっきりぶつけた。ごん、と鈍い音がして頭の芯まで痛みが響く。
「……ってえ……」
「……大丈夫?」
「うるせえ!」
「……その荷物は?」
「手品師に荷物の中身を聞くんじゃねえ!」
「……
「俺も行っていいんでしょうか!!??」
「え、うん」
「ありがとうございます!!!」
いつもは適当に言ってしまうお礼の言葉をはっきりくっきり発音すると、身が引き締まる思いだ。俺が立ち上がって荷物──バカでかい、ソロキャンプにでも行きそうなリュックサックを背負うのを、サクラがじっと見ている。本当はスーツケースの方が楽なんだけど、おんぶしてもらう身で更に荷物を持たせるなんていただけない。いやリュックも荷物増えるは増えるんだけど俺が背負ったのをおんぶしてもらうから、手間は変わらないというか……。
「あっ、てか、荷物増やして大丈夫か!? 重いよな!?」
「うん、全然平気」
「よ、良かった」
「ナオ二人くらいまでならいけるよ。筋トレのウェイトはそれくらいだから」
「そ、そうか……」
背中のリュックだけでも重いと思ってた俺は、ちょっと落ち込みながらサクラに背負われた。俺二人分って……そんなにガリじゃないし、最近ちょっと腹回りがふとましいし、サクラを見習うって言うと変だけど筋トレしようと思ってたし、そんな俺を二人分……。あーあ、今日も舞宙術の見晴らしは最高だ。あそこに浮かんでる雲なんか、もう少し高く飛んだら触れるんじゃないかな。
「……いた、あれだ!」
今日の現場は海辺だ。砂浜にすごく長いストローをバキバキに折り曲げて丸めたみたいな塊がでんと鎮座して、コバルトブルーの煙が上がっている。絶好のレジャー日和だったみたいで、人は避難した後だが、パラソルやらレジャーシートやらバーベキューセットやらがあちこちに残されたままだ。観光地だからか、人が立ち入らないように地球防衛軍が少し離れた道路を封鎖しているのが見える。
「すごく固そうに見えるな……」
「ナオもそう思う?」
「おう……」
バキバキアザーズは、クモだかカニだかみたいに折り曲がったそこかしこを動かして移動する。バキバキの一つ一つの形はそのままで、どこかが関節のようになっているらしい。持ち上げた部分が砂地に降りる時に、ずしん、どん、と重そうな振動が走っている。サクラはあたりを一通り旋回してから、俺を砂浜のバーベキューエリアのあたりに降ろした。俺はリュックの中からひとまずジンバル自撮り棒を出して、サクラのスマホをセットする。さっきまで来ていた適当な部屋着を脱いで、届いたばかりの新しい服に着替えた。
「……アラサーのちょっともっちりボディをじっと見てるんじゃねえ女子中学生」
「あ、ごめん」
「俺ちょっと最初にアナウンスするからな、サクラその後に挨拶してくれな」
「……その服で?」
「おう」
俺はフフンと笑って見せた。着ているのは桜吹雪が全面にプリントされ、正面ど真ん中に「魔法少女ブシドー・サクラ応援隊」と書かれたTシャツだ。
「……そんなの作ってたんだ」
「おう! 俺が出てPV稼げるんならいくらでも出る! ただしメインがサクラだって分かるようにしておかないとな!」
「ふうん」
「よしじゃー始めるぞ! 気張って行こう!」
「うん」
サクラは何か言いたそうな顔をしていたが、俺はそれを聞くのが気恥ずかしくてさっさと配信の態勢に入った。いつもは俺、スマホ、サクラの順番に並ぶが、今日はスマホ、俺、サクラの順番で、カメラも自撮りモードにした。自分でも若干緊張しているなと思いつつ、配信開始のボタンを押す。配信はオッサン極まりない俺の顔面のどアップから開始することになった。
「……みなさんこんにちは! 魔法少女ブシドー・サクラのアシスタント、ナオです! 先日の動画にたくさんリアクションありがとう! 正直びっくりしました俺男だから!」
早口でまくしたてつつ少しずつ画角を広げる。俺の顔面だけだった画面にサクラ応援隊のTシャツが映り、後ろで仁王立ちしてこちらを見ているサクラも映る。更にその後ろには海辺の風景と、がしゃがしゃ動いているアザーズの姿もバッチリ映り込んだ。我ながら完璧なカメラアングルじゃねえか!
「ブシドー・サクラはみなさんご存知の通り武士なので、あんまり喋りません! なので俺が解説っぽいことをやらせていただこうと思います! あといろんな形でサクラを応援していこうと思い……まっす!」
言いながら俺は、秘密のポケットに隠していた飛び出す花束をばさりと取り出した。手品師がよく使うどこにでもある仕込み花束だが、花の色と形を桜に見えるように昨日丸一日かけて改造してある。
[y12oMK:桜の花?]
「おっ、ワイワンツーさんコメントありがとう! そうだよ桜の花、季節は終わっちゃったけどブシドー・サクラだからね! 俺は本業が手品師なので、サクラのために桜の花で作ってみました! さあサクラ、ご挨拶オナシャス!」
俺はジンバルを少し動かして、画面中央に桜が映るようにした。サクラは俺が出した花束を見て目を丸くしていたが、自分が大映りしているのに気が付くと、きゅっと唇を引き締めた。
「……ブシドー・サクラです。この前はコメントをたくさんありがとうございました。今日もアザーズを倒します」
「はい今日も武士のご挨拶ありがとう! 気張って行ってこい!」
「うん」
サクラは頷くと、俺が持っている桜の花束を見て、俺を見て、ふっと笑った。それからすぐに背中を向けたかと思うと、いつものように舞宙術で飛んでいく。俺は全面カメラから背面カメラに切り替え、アザーズに飛び掛かるサクラを追い、絶妙なタイミングでズームアップした。
ガコォン!!!
いつもより金属質な音と共に、振動がびりびりと俺のところまで伝わってくる。
「いいぞーサクラー! ぶちかませー! さー皆さんも俺と一緒にサクラを応援しよう! スパチャをしてサクラ応援隊に入隊しよう!」
俺はサクラをカメラで捉えながら、フレームアウトしないように走り出した──
サクラはこの日も悠々とアザーズに勝利した。リアルタイム視聴者数は千人超、配信中のコメントも二〇〇件を超えた。そしてなんとスパチャも二〇件来て、総額は三万二千円。どれもこれも「エンチャント・ナオのマジカルミラクルワールド」の最高記録をあっさり抜きやがって、改めて魔法少女というコンテンツのエンタメポテンシャルにぞくぞくさせられた。
[KaijuKicker24:ナオたん手品できるんだね、可愛い]
[たんぱく質大臣:お友達の配信手伝うナオちゃん]
[BuffBunny89:Tシャツから分かる無防備なほどの大平原]
[KarateAdmire123:サクラちゃんが飛び立つ瞬間がイケメンすぎて惚れた]
[ToughAndTender88:いい背筋だ]
[PumpIt99:ナオちゃんがサクラーッて叫ぶ声がよき]
[MuscleMage123:OMG Sakura is so strong! Love from MuscleMage123!]
[正拳突きFan:13分あたりのサクラちゃんのパンチラッシュが神]
[ジム帰りのジョニー:サクラちゃん勝って喜ぶナオたん]
[Fujimoto.Mama:今日もお疲れ様でした。手品びっくりですね。サクラちゃん強かったね。]
[ToughAndTender88:俺っ子ナオたん照れて男って言ってるよね]
[y12oMK:お疲れ様です。今日の敵は硬そうでしたね]
[カラフル大福:今日はお姫様抱っこはないのかな]
「うるせーてめーら俺は男だ! サクラ応援しろ!」
……配信には俺がキレ散らかしている音声もたんまり入っていて、俺はアザーズを倒した後にサクラ様に再びの土下座をしたのだった。
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