第2話 旅立ちの日に②

「お母さん──ッ!!」


 家に帰り、急いで俺は申請用紙をお母さんに見せた。


「ダイジャを倒したんだ、印鑑をお願いッ!!」


 がしかし、お母さんは腕を組み、なにやら曇り顔の様子だ。


 あれ、俺今、何かしちゃったのか……?

 まあ、いいや。


 リュックから、ダイジャの首を取り出し見せると、


「きゃあああ──ッ!!」


 驚くお母さん。


「ほら、これが証拠だよ。だから、お母さんお願い。俺を冒険者に──」


 はあ、とため息を吐くお母さん。


「やっぱり、あいつの息子ね。冒険者になるのね」

「もちろん、俺は冒険者になって親父を越すんだからなッ」

「冒険者はいつも死と隣り合わせの職業、それでもなるのね?」


 俺は両手を首元にやって、ニコニコで言う。


「もちろんだよ、そのために10年間、俺は死ぬ気で頑張ってきたんだもん」


 正直に言おう。

 俺はお母さんの気持ちに気づいていた。

 親父は昔からたまにしかこの島には帰ってこなかったし、今となってはもう帰ってこない。

 さらに、俺も冒険者になるということは、こうしてお母さんと会う機会がほぼなくなるということ。


 申し訳ない。


 けど、お母さん。

 俺は親父を越す冒険者になりたいんだ。


「じゃあ、約束」

「ん?」

「死なないこと」

「当たり前だよ」


 ニコッと微笑むお母さん。


「なによりも、あいつに会ったら、顔面をぶん殴ること!!」

「オッケー」

「よしっ。なら、冒険者になりなさい。そして、あいつを越すのよ!!」

「あたりめーだ!!」


 こうして、俺はお母さんから冒険者になるために必要な申請書に、印鑑を打ってもらうのだった。



 冒険者になるためには年に一度行われる、冒険者ギルド主催の冒険者試験を受ける必要がある。

 試験は毎年1万人を超える受験者がいるわけだが、そこから合格するのはわずか数十名。

 少ない時は数名らしい。

 まあ、冒険者というのは危険な職業なわけだし、当然と言えば当然だ。


 ここ、ガルーラ島からまず、船で街に移動する。

 そこから飛行機に乗り、冒険者試験の会場であるヴァルディア大陸のギルドレストタウンに向かう必要があるのだが……。


「えええ──ッ、お金出してくれないのおおお!?」


 なんと……


「当たり前でしょう、自分で選んだ道なんだから自分でなんとかしなさいっ」


 お母さんは一切お金を払ってくれないらしい。


 冒険者試験には1万ゴールドかかる。

 交通費は5万ゴールドかかる。

 宿泊費や食費を5万ゴールドとして、今自分の財布は1万ゴールドしかない。


 は、はらえねえ……!!


「たっ、頼むよお!! 前借りッ、すぐに冒険者になって稼いで返すからさッ!!」

「だめよ、甘えちゃだめ。冒険者になるのならなおさら甘えちゃだめよ」


 くっ、くそお。

 となれば……。

 試験まではあと一ヶ月あるわけだし。


「働くしかないかあ……」


 稼いでやる。

 10万ゴールド稼いでやるッ!!


「あなたにいい仕事、見つけたわよ」


 と、一枚の紙を見せるお母さん。


「ん?」


 受け取り、詳細を見ると、

 

「魔物討伐のアルバイト……え、一体倒すごとに1万ゴールドおおお!?」

「そう、これで稼いできなさい」


 魔物討伐の仕事を受けれるのは基本、冒険者だけ。

 だが、この島には冒険者はいない。

 だから、誰でも募集になっているのだろう。


「ああ、そうするよ。そうだよ、冒険者になるんだ、こんくらい倒さねえとなッ」


 というわけで、俺は冒険者試験のために魔物討伐のバイトをすることとなるのだった。

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炎属性の冒険者 さい @Sai31

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