炎属性の冒険者

さい

第1話 旅立ちの日に①

 冒険者──それは、一言で表すのならロマンそのもの。

 未知の地を探り、隠された秘宝を求め、強大な魔物を討つ。

 危険と隣り合わせであることは間違いないが、その分、栄光は誰よりも輝く。

 誰かに頼られる存在となり、名を刻む冒険者になることは、どの時代においても憧れの的だ。

 だが、それは夢の中だけの話。

 現実は、夢を追う者のほとんどが志半ばで倒れる。

 成功した者だけが『冒険者』と呼ばれ、世界中の羨望を集めるのだ。

 そんな厳しい世界で、一人の少年が今日も旅立つ。

 

 ――『世界最強の冒険者、勇者』を目指して。



 グランハザニャ大陸、ガルーラ島にて──




 親父と最後に会ったのは、5歳の時。


「いいか、リュウ」


 ポンと、親父は俺ことリュウ=ガーデンの頭に手を置いた。


「冒険者はいいぞ。夢と希望で溢れてるからな」


 親父は世界最強の冒険者に与えられる称号、『勇者』だった。

 俺にとって親父はまるでヒーローのような存在で、親父に言われなくとも、俺は──


「いつか、お前も冒険者になれ」


 冒険者になるつもりでいた。

 理由は一つ。


「当たり前だよ、俺は冒険者になる。そして、お父さんを超えるッ!!」


 『勇者』になるためだ。

 

「ふん、流石俺の息子だ。約束だぞ、リュウ」


 小指と小指を結び、俺と親父は約束をした。


 なるんだ、勇者に。

 そのために、俺は冒険者として生きていくんだ。


「うん、約束!!」


 これが親父との最後の会話だった。




 10年後──


 雲ひとつない、蒼天を一匹の翼の生えたウサギが飛んでいく。


「うあああ──ッ!!」


 森の中、走る。

 走る。

 走る!!


 とにかく全力で走る。


 背後から、バッサバッサと、木々が倒れていく音がする。


 後ろを振り向くと、そこには巨大なヘビ──ダイジャだ。


「お前を倒して、俺は……」


 ダイジャに向かって、『メラメラと燃える固まりファイア・ボール』を放つが、効果はなし。


「くっそ、なんで炎耐性があるんだよッ」


 なぜ、今俺がダイジャと戦っているのかって?

 理由は簡単だ。

 冒険者になるための申請用紙には親の印鑑が必要であり、それをお母さんに打ってもらうためだ。


「お前を倒さねェと、俺は冒険者にはなれねーんだよ!!」


 くっそ、どうする?

 どうやってダイジャを倒す?


 俺は炎属性であり、炎魔法しか使えない。

 が、ダイジャは炎耐性を持っている。


「ん、よしッ」


 一本の木に向かって、『メラメラと燃える固まりファイア・ボール』を放つ。


 木は崩れていき、そのままダイジャは下敷きとなる。


「ぐぎゃあああ」


 吠えるダイジャに向かって、俺は身長ほどの岩を両手で掴んで、ダイジャの頭に向かって落とす。


 グチャッ!!


 頭部は弾け飛び、ダイジャは動きを止めた。


「はははッ、見たか、ダイジャ!! これが俺の実力じゃーい」


 俺、15歳。


 親父、15歳になったよ。


 冒険者には満15歳からなることのできる資格が与えられる。


「うっよおーし、なってやるぜ。冒険者に……いやっ、勇者に!!」


 これは、俺が勇者になるまでの物語!!

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