第11話 俺をフッタ少女に遭遇してしまったので今日は描けない

「よく撮れてるぜ、うははは」


 木上は顔の原型が分からなくなるほど腹を抱えて笑いながらスマホの画面を見せてくる。


「よくやった、お前は最高のカメラマンだぜ」


 絆創膏や包帯を巻かれた腕で俺は、木上に親指を立てて見せる。


「お、そろそろ昼の放送を止めに行ってくるわ、写真も送っといたからー」


 そう言って木上は保健室を後にする。

 保険教諭のなななちゃんも相変わらず保健室にいないので、俺は一人になり、ひとまず椅子に座ったままスマホを取り出して写真を確認する。


「これ、二メートル以上は飛んでるな」


 ……そういえば、あの時の視線は誰だったのか。

 どこかのアクションマニアが、熱烈な視線を送っていた可能性もあるが、それにしてはずっと見られていた気がしないでもない。


「普段から好奇の目に晒されてるし、気にする必要もないか」


 椅子を立ち上がり、保健室を後にしようとしたとき、再び、背中に刺さる視線を感じた。


 今の俺は派手なスタントをこなし、バトル漫画を練っているせいか、脳内エンドルフィンは溢れんばかりなので、ジャッキーチェンやブルースリー並の気配察知能力を有している。


 間違いない、誰かが俺を見ている。

 ふと後ろを振り向くと、閉じていたカーテンが揺れた気がした。


「何者だ」


 俺はカンフースターのように構え、カーテンの中に潜む人物へと問いかける。


「……!」


 するとカーテンの中は何やら物凄い素早さで動いており、耳慣れた音が俺の脳を刺激した。

 この板を叩くような接触音は、タブレットへペンを走らせる音だ。

 僅かばかり待つと、カーテンの隙間からタブレットの画面だけが顔を出した。


「なになに……?」

 そのタブレット画面に描かれているのは、可愛らしい少女の絵柄で心配しているイラストと、噴き出しが飛び出して、『だ、大丈夫ですか?』の台詞が描かれていた。


「ああ、だ、大丈夫だ」


 俺が返答すると、タブレットはカーテンの中に戻り、数秒もしないうちに再びこちらに向けられる。

 なんという速筆か。

 しかも相当なクオリティを維持しており、走り書きでも人を引き付ける絵柄である。


『どうして、昼休みに校庭で自転車競技を……?』

「漫画の素材として必要だったんだ」

『む、無理はしないでくださいね』

「優しい言葉大変痛み入る、保健室に住まう者よ」


 しかしこの絵柄見たことがあるな……美少女系というよりは、女性らしい柔らかい線と青年誌のような丁寧でシンプルな絵柄――。


「――!」


 それに気が付いた時には遅かった。

 俺の背中には冷や汗が沸きだし、筋肉は硬直する。


「ま、まさかそこにいるのは――双葉なのか」


 遠のきそうな意識をしっかりと掴む。


 フラれた日を思い出しそうになるが、目の前にいるのはカーテンの中に住まう幽霊だと信じ込ませて、何とかこの場に踏みとどまる。

 保健室の時間が止まり、先に動いた方が命を落とす――訳もなかった。


『うん』


 タブレットに描かれた少女は、「いやー、こまったなぁ」のような表情でさらっと描かれている。


「ひ、久しぶりだな」


 文化祭準備期間中にフラれたので、半年と少しぶりに双葉とコミュニケーションをとっている。


『うん』

「ふ、双葉はどうしたんだ、貧血か?」

『うん』

「そっか、昔から多かったもんな、身体を労わってな」


 ヤバい、これ以上何を話していいのか分からない。

 フラれた男が何を話しても未練たらしい気がする!


「そ、それじゃあ俺は行くから」


 頑張った、俺は気絶せずに双葉とコミュニケーションを取れたのだ。

 なんという進歩か。


 内臓の全てが活動停止している気はするが、顔を見ずに、意識を逸らせば会話はできる!


『ま、まって』


 だが、すっかり俺に興味がないと思っていた双葉は、ぎざぎざの吹き出しマークへ言葉だけをタブレットに書いた。


「な、なんだ」


 次の絵が登場するまでは数秒はなのだろうが、今の俺には永遠に感じられる。

 だって何らかの理由でふった相手だぞ、ポジティブな理由なんて、何一つあるはずが無い。


 タブレットの音が消え、カーテンからそっと差し出された絵は、恥ずかしそうにしているが、言葉を絞り出しているような表情だ。


『あ、あの、部室に、来て、ほしい』


 震える文字だが、その言葉は力強く、俺の胸に突き刺さった。

 どうやら半年ぶりに漫画同好会へと足を踏み入れなくてはいけないようだ。




==========

※2024/12/8 更新停止中

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎日 06:17 予定は変更される可能性があります

幼馴染の双子(姉)はクールキャラなのに俺にだけ甘々だし、双子(妹)はフッタくせに迫ってくるし、静かに漫画家の夢も追えません!- 新人賞に応募させてくれえ! - ひなの ねね🌸カクヨムコン初参加🌸 @takasekowane

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画