第8話 俺は察しが良いタイプだと思っているから描けない

 小春日和で休日ということもあり、人通りは多い。

 隣を歩く人は彼女連れの男性や、彼氏連れの女性など交際日和のようだ。


「アキちゃん」

「ん?」


 駅前できょろきょろと辺りを見渡しながら、一人納得したように七彩は頷く。


「人通り多いよね」

「そうだな」


 この辺りは俺にとって便利な画材屋や本屋もある。

 また大型家電量販店、アニメショップ、ファッションビルも集中しているので自ずと若い人間は集まりやすい。


「こういうときってさ、はぐれないようにしたくない?」

「まあ、そうかもな」

「じゃあ、ほ、ほら――幼馴染の再会後のおでかけだし、と、特別だしさ」


 と何かを差し出してきたので、さすがの俺もすぐに理解する。


「お、さすが七彩。

 確かに連絡先交換すれば、いつでも連絡取れるもんな」


 俺に連絡を取るのは家族か木上しかいないから、すっかり忘れていた。

 何故か肩を落としている七彩に対して、俺はスマホを取り出す。


「……そうだね、うん」


 七彩は複雑な表情をしつつ、小さな鞄からスマホを取り出して連絡先を交換してくれた。

 これで迷うこともあるまい。

 俺たちはそのまま地元でそれなりに大きい本屋へと入店する。


「さて、七彩。そもそもだが、描きたいモノがないのに漫画を描きたいのは、どうかと思うんだ」


 立ち並ぶ本棚の森を進みながら、俺は七彩へと語り掛ける。


「七彩は双葉の作品を読んだことはあるか?」

「うん、偶然、リビングに置いてあったタブレットが開いてたから」


 未完成の作品を第三者に読まれるのって恥ずかしいんだよなあ。


「双葉の漫画はストーリー性重視で丁寧に描かれているモノが多い。現代のヒューマンドラマや恋愛系の話が多かった気がする」


 双葉との思い出を掘り起こすと、胸の奥がわしにでも掴まれたように苦しくなる。


「確かにそんな感じだったよ」

「俺は客層に合わせて、絵柄も話も合わせられるタイプなんだが、双葉は真逆だ」

「真逆?」


 七彩は頬に指を当てて、可愛らしく首をかしげる。


「人見知りな分、普段隠している気持ちを作品に反映させる作家なんだ。

 それが七彩にあるかどうか、だな」

「私も客層に合わせればいいんじゃない?」


 当然の回答が返ってくる。


「漫画を普段読まないタイプは、初めからそこを狙うのは難しいと思ってな、だから本屋に連れてきた」

「つまり、ここでテーマを探せってことね」


「ああ、練習用で構わない。初めに作る題材として、好きなものをから始めた方が良いと思ってね」

「ありがとう、アキちゃん、探してみる!」


 と言って数分後、彼女が本をいくつか選んできた。


「こんなのどうかな、社会性も考慮してみたんだ」

「ええと……世界の株式、インデックス投資とは……却下だ」

「ええ、お金は大事だよ!」

「そりゃそうだが、初めにしては難解すぎないか?」


「じゃあ、こっちはどうかな」

「……世界遺産、 ファウンティンズ修道院遺跡群を含むスタッドリー王立公園の今……七彩は何を表現したいんだ」

「今度、旅行の行き先にしようかなあって」

「ダメとは言わないが、双葉を乗り越えたいなら、もう少し漫画寄りのテーマの方が伝わるかもしれないな」

「漫画寄りのテーマっていっても、私、アキちゃんと双葉の漫画しか読んだことないし?」


 そう来たか。

 薄々思ってはいたけど、このお嬢様、やっぱり漫画本に触れたことがなかった。


「よくあるのは熱血、努力、友情。後は恋愛とかヒューマンドラマもある」


 七彩は俺の言葉を聞いて、ふむと口元に手を当てる。


「もしかして、読者の共感性を狙うのがよくある手法?」


 おお、さすが『明野星高校の天才』、漫画に求めている一つを自然と導きだしている。


「その手法は多いな。

 だから双葉の漫画は胸をうつものが多いし、SNSでも人気が高い」


 俺が過去にばら撒いた同人誌も共感性を誘発するものだが、今は黙っておこう。


「――アキちゃん、カフェいこっか」


 何を思いついたのか、突然、七彩は本を本棚へ戻して、店を後にする。


「お、おい」


 突然の申し出に俺は驚きつつも、俺は七彩に付いて行くしかないのであった。




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