幼馴染の双子(姉)はクールキャラなのに俺にだけ甘々だし、双子(妹)はフッタくせに迫ってくるし、静かに漫画家の夢も追えません!- 新人賞に応募させてくれえ! -
第5話 俺は教室での幼馴染を見るから描けない
第5話 俺は教室での幼馴染を見るから描けない
「双葉がテーマなら、私がテーマの作品があってもいいと思いません、春夏先生?」
「思いません」
どこの世界に、実在する手が届かないレベルのカースト上位のクラスメイトをヒロインに据えた作品を書く作家がいる。
悲しすぎやしないか?
……と自分で言って思ったけど、フラれたからって好きな子に勝手に似てしまった作品を作る俺も大概だったな。
若さ故の過ちと言いますか……もう二度と起こしちゃいけねえ悲しい出来事だ。
「アキちゃんが求めるなら、いつもでも――覚悟完了するけど」
「もとめんから、安心してくれ」
「えええ……」
七彩は残念そうな顔をして、それに、と言葉を紡ぐ。
「――双葉に負けたくない」
「双葉に?」
七彩の声音には確かな重みがある。
「ほとんど双葉に勝ってたよな?」
留学する小学三年生くらいまで3人でよく遊んでたけど、双葉が負かされて、七彩が仁王立ちしているシーンしか思い出せん。
「それに、もう既に日本を離れてる間に一つ負けてるから……むぐむぐ……」
「なんか負けてるのか?」
俺をちらりと見てそれ以上は言いたくないのか、七彩は口に無理やり手を当てる。
「だ、だからまずは、双葉が得意としてる漫画で勝つ! 勝ちまくる!
そして再び私がアキちゃんに意識してもらうのだよ!!」
「意識するかどうかは別にして、双葉に勝つのは無謀ともいえるな」
双葉は子供の頃からイラストを描いているので、高校生になった今ではSNSのフォロワー数もそれなりに多い同人作家である。
壁サークルほどではないが、webでの人気もそこそこだ。
「無謀でもね、おねーちゃんは、この世界で妹に負けてはいけない制約がある」
「初耳なんだが」
俺の住んでる世界では聞いた事ないルールだな……。
「今日から、私が敗北を知ることはない、もう二度と!」
どれだけの強気だよと思うが、それが
「まあ、やっと妹と同じフィールドで競えるって思っただけかもだけどね」
七彩は自分でも感情を計りかねているのか、にへらと笑う。
彼女は昔からこういうやつなのだ。
一見、理論的だが、感情を優先してその先の答えを掴もうとする。
ならばこれ以上のやり取りは不要だろう。
「そうか、七彩の気持ち、しかと受け取った」
「そ、それじゃ」
「任せろ、俺が双葉を超える作品を作るまで手伝ってやるよ」
「ありがとう、アキちゃん!」
と、当たり前のように抱きついてくるので、俺は身体を反らす。
「なんで避けるの!」
一般的にそのスタイルで密着されたら、世間的に他の男性に刺されそうで怖い。
「うううう、ほんのちょっとハグしたいだけなのにいいい!」
「双葉に勝ったら、考えてみるよ」
と、適当に流して俺たちは帰宅の途に就くのであった。
俺たちの間には春独特の生暖かい夜風のみが通り抜ける。
まだ頬を膨らましている七彩がちょこんと並び、ふと、思いついたように俺に問いかけた。
「それで、まず聞きたいんだけど、漫画ってなに描けばいいの?」
■■■
「どったの、春夏」
俺は昼休みにしては珍しく自分の席にいた。
焼きそばパンを食べながらノートに描いたネームを煮詰めつつ、とあるクラスメイトを眺めていたからだ。
彼女は先日とは打って変わって、表情の変化は少なく、クラスメイトの言葉を冷静に聞いて相槌を打っている。笑い方も「にへへ」としたものではなく、小さく微笑む程度で社交界のお嬢様のようだ。
「ここだけ切り抜けば、確かに氷のお姫様だ」
皆とは一線を引き、静かに話を聞いて必要なことのみを話す。
座る姿も華のようだが、仕草はさらに品がある。
木上も同様に焼きそばパンを食べながら俺の視線の先を見る。
「目線の先にいるのは――ああ、フォックスさんか」
七彩のミドルネームはフォックスなので、クラスでの呼ばれ方も自然とそうなる。
「昨日、何かあったん?」
「いや、特には」
木上には面倒くさいから、色々伝えるのは辞めとこう。
「だよなあ、あのフォックスさんが、お前みたいな学校の
「うるせえ、お前を同人誌に描いてやんぞ」
「ひえ、こええ」
木上はゲラゲラと笑って、「昼の音楽変えてくるわ」といって、俺の席から離れていく。
「明日か……」
漫画で何を描けばいいのか分からない発言から発展したのは、休日に書店に出掛けることだった。
女子との外出はフラれる前の双葉以外にないが、今回の相手はあの七彩である。
どうやって気絶しないように過ごすかが一番の重要事項だ。
正解はやはり今後関わらなければ良いのだが、そもそも双葉と同じ顔で悩まれるのも、頼まれるのも、泣かれるのも苦手なので、人間の気持ちというのは難儀なものである。
そんな俺の視線を感じてか、帰国したばかりのお嬢様は、人目の隙をついて「にへへ」と笑顔で俺に軽く手を振る。
だから俺は軽く振り返して、すぐノートに視線を落とした。
瞳さえ見なきゃ、何とかなる……かな?
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