第7話 大鎌ってド派手でいいよね
「よし、こんなところか」
パソコンの前で動画のアップロードを終えた蓮は、満足気に呟く。その様子を隣で見ていた猫乃門も、思わず感心したように声を上げた。
「おぉ、すげぇ……! このサムネイルとかいうやつから編集まで全部プロ並みじゃねえか。コレ一晩で全部覚えたのか?」
サムネイルとは、動画における表紙のようなもので、動画投稿サイトの一覧において動画タイトルと共に表示される画像のことだ。その動画がどのようなものか一目見てわかるようなものが好ましい。
現在、蓮が作ったサムネイルには寒色を基調とした色彩の中、『チャンネル一新』の文字と共に黒い影の蓮と、動画の一部を切り取った猫乃門の画像がわかりやすく、かつ見栄えのする美しさで収まっている。
褒められた蓮はひどく誇らしげな表情をした。
「当然だ。私は天才だからな。だがこれはまだスタートラインに立てただけだ。ここからが肝心だぞ」
「ここから……」
「あぁ、動画を撮るんだ」
力強く宣言した蓮であったが、一方で猫乃門は難しい表情を浮かべる。
「つってもなァ、そう簡単にモンスターなんか……」
出ねえし、という猫乃門の呟きは蓮のあっけらかんとした声によって容易く打ち消された。
「今ちょうど一体いるな」
「わかるのか!?」
猫乃門は驚きのあまり飛び上がりながら、蓮を見やる。しかし彼女は冷静だった。
「無論だ。『仮面』を見つけるときと同じだ。そういう気配を感じる」
猫乃門は思わずあんぐりと口を開けた。
「お前万能すぎねえか? まるでこのために作られたみてえだな」
「馬鹿なことを言ってないで行くぞ。どうやら人もいるようだ」
「!」
猫乃門の瞳が鋭く光った。先ほどとは打って変わった、力強い瞳。
彼女は急いで仕事道具であるネコ型のプラスチックケースを背負うと、即座にすでに出て行った蓮の後を追って、玄関へと向かった。
***
「あそこだ!」
蓮が指をさした先には、近隣の戸建て住宅ほどの背丈をした熊のような黒い獣がいた。その鋭利な四本の爪が光る片手は、今にも振り下ろされそうなほど高く掲げられている。
その前にいるのは――やけにコスプレめいた衣装を身に纏った幼い少女だ。
「危ねえ!」
叫ぶと同時に猫乃門は駆け出した。背のプラスチックケースを後ろ手で叩いて自前の武器――大鎌(デスサイズ)へ変形させると、そのまま勢いよく獣にめがけて振り下ろした。
「GA・AA・AAAAA!!!」
咆哮にも似た低い唸り声とともに、獣の背からぶしゅりッと鮮血がはじけ飛ぶ。それを間近で浴びながら、猫乃門は衝動的に振り下ろされた獣の手を身軽に避ける。
刃が如き鋭い爪が、わずかに猫乃門の頬を掠った後、一瞬にしてコンクリートの地面を、まるで豆腐でも抉るかのように削り取った。
しかし、それは一撃では終わらなかった。
その重い一撃が、もう一方の腕から繰り出される。
「――――ッッ!!」
反射的に大鎌でそれを受け止めた。
しかし、金属を擦り合わせるような甲高い音がするや否や、猫乃門の腕に突然鉄球でも投げつけられたかのような重さが加わって、勢いのままに後方へ弾き飛ばされた。
「ッッぐ、ゥッ!!」
歯を食いしばりながら近くの電柱に刃を突き立てて、かろうじてその衝撃を殺しながら屋根の上に飛び乗る。
獣の攻撃を受け止めた瞬間に感じた、怒り、怒り、怒り。
加えて黒い獣は痛みに激昂していて、このままではこの付近一帯で暴れまわるだろう。
しかし、それがある意味で好機でもあった。
冷静な判断能力を失った、ただ大きいだけの獣に後れを取るほど、猫乃門は柔な鍛錬はしていない。人間であるという枷を抱えた彼女が、それでも今の今まで戦闘人として生きてこれたのには、それなりの理由がある。
猫乃門を見つけた獣が再び咆哮と共に片腕を振り上げる。ぎらりと光った爪が彼女を食い破るように鋭く輝く。
されど――遅い。
その動きを見切った猫乃門は、途端に獣の視界から消えた。自身の腕が空を裂いたことに気付いた獣が、その鼻を頼りに彼女の居場所を探ろうとするが、しかし。
獣が彼女を捕捉するよりも前に、猫乃門は獣の死角に回り込むと、その頭上をめがけて大鎌を振り下ろした。
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