第41話 知らせと約束
MPディバイスの通信を終えた陽太は、自宅の玄関を開けて中へ入った。
「ただいま」
そこそこ大きな声で呼びかけたが、家の中からは返事がなかった。
陽太のエネルギーセンサーの感覚によれば、家の電線には通常どおり電流が流れている。だが、電気は点いておらず、リビングも暗い。中に人の気配はなかった。
「お母さん、いないのか。買い物にでも出かけたのかな」
そう呟くと、陽太はゆっくりと落ち着いた様子で自分の部屋へ戻った。
鞄と、どら焼きが入った紙袋を机の上に置いたその時、MPディバイスが再び鳴った。接続すると、
「陽太君、井口瀧生について調べてみたわ。彼は10歳の時に水を操る異能が発覚し、それ以降、警察や
わずか数十分の接触ながら、彼の言動から感じ取った印象と、記録上の人物像がぴたりと重なる。陽太は小さく息を吐いた。
「……すごい人ですね」
「でも、彼は中学3年の時、事件協力中に大怪我を負っているの。手術を受けて命は助かったけど、その後はほとんど一人で行動するようになったわ。原因は不明だけど、性格も大きく変わったって記録されてる」
瑶妤の言葉に、陽太は少し不安を滲ませながら訊ねた。
「僕のこと……彼に知られても、大丈夫でしょうか?」
「安心するのはまだ早いわ。彼が案件として報告すれば、記録が残る可能性がある。けれど、君は強盗犯に対して直接的な攻撃をしていないし、周囲の器物も破壊していない。ただ、素手でナイフを受け止めて、それが溶けただけ……よね?」
「はい、僕は手を出していません」
「それなら、“秘密保護法”や“自由意志保障条律”が適用されて、警察が君を追及する可能性は低いでしょう。ただし、井口くんが君のことを第三者に話してしまう可能性はある。一般人には他人の秘密を守る義務がないから」
陽太は事態の複雑さを改めて理解し、焦った声で言う。
「瑶妤姉さん……じゃあ僕は、どうすればいいんですか?このままじゃ、異能者だってこと、隠し通せる自信がありません……」
「これからは、事件現場には極力近づかないこと。異能者との接触も可能な限り避けること。誰かと揉めそうになったら、その場をすぐ離れるように。もし一般人を傷つけたり、物を壊したりしたら、その責任は確実に問われるから」
「でも井口さんが言ってました。社会に“化け物”として定義される前に、自分の力を人を守るために使えると示さないと、結局そう扱われてしまうって……」
陽太の言葉に、瑶妤はわずかに驚きの表情を浮かべ、口調を少し強めた。彼女の声には、真剣な思いがにじんでいた。
「確かに、一見するとそれは正しく聞こえるかもしれない。でも、大きな誤解を含んでいる。コントロールできない力は、決して命を救う力にはなり得ない。むしろ、より大きなリスクと悲劇を招く危険があるの。力を使うということは、それだけ重い責任を背負うということよ」
瑶妤は、デバイスに表示された最新のデータを確認しながら言葉を続けた。
「君が知らせてくれた記録と、私たちが独自に解析したデータから判断すると……陽太くん、君は瞬間的に数千度にも達する高温を発することができる。その熱は、一般人相手に使えば、ほんの一瞬で命を奪うことができてしまうものなの。そんな力を“制御できている”と、自信を持って言える状態じゃないのは分かるよね?」
陽太はうつむいたまま、かすかに唇を噛みしめていた。そして、小さく呟くように言った。
「でも……今のままじゃ、いずれバレるのは時間の問題です。それに、僕は人間です……。化け物なんかじゃない。ただ、そう思われるのが怖いだけなんです」
その言葉に、瑶妤は一歩踏み込んだ柔らかな声で答えた。
「大丈夫。私の言葉を信じて。君は化け物なんかじゃない。確かに、人に説明できるような“答え”が見つかるまでには、少し時間がかかるかもしれない。だけどその間、君が傷つかないように守るから。だから――もう少しだけ、辛抱してみてくれる?」
モニター越しに彼女の表情がやわらぎ、優しく微笑んだ。
「君のご両親には、すでに連絡してあるわ。土曜日に、うちの研究所へ来て。そこで、もっと詳しい検査を受けてほしい。きっと君の力をコントロールする方法も見つかる。君だって、本当は人を傷つけたくなんかないでしょう?」
陽太は深く息を吸い込み、しばらく黙ったまま画面を見つめていた。そして、決意したようにゆっくりと頷いた。
「……分かりました。瑶妤姉さんの言葉、信じます。なんとか、耐えてみます」
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