第19話 命の再燃の鼓動 ②
「揺れが収まったな。移動しようか?」
中年の男が営業員に声を掛ける。
「ちょっと待て。お前は俺たちをどこに連れて行くつもりだ?」
営業員の男は軽く頭を下げながら答える。
「今、施設内の避難シェルターはどちらも満員です。とりあえず、外に向かいましょう。」
中年の男は不信感を露わにし、反論する。
「俺たちは体力がないんだ。動く前に、避難ルートをちゃんと説明してくれ。」
「この先、右の通路を進めば50メートル先に出口があります。そこから脱出しましょう。」
その説明に陽太が控えめな口調で口を挟む。
「あの、すみません。僕、さっきそこから来たんですが……その出口、瓦礫で塞がれていました。」
営業員は困惑した表情を浮かべ、考え込むと、新しいルートを提示する。
「そうですか……それなら、メイン通路を真っ直ぐ進むしかありません。150メートル先、北棟に繋がる回廊があります。そこから脱出できるはずです。」
「ふざけるな!俺たちの命をお前に預けているんだぞ?確認もしていないルートを提案するなんて、信用できるか!この施設は従業員への教育が足りてないんじゃないのか?」
中年の男の言葉に、営業員は恐縮しながら頭を下げた。
「申し訳ありません。緊急事態のため、状況が刻々と変化しており、全てのルートを事前に確認するのは不可能なんです。どうかご理解ください。」
「理解なんかできるか!500メートルも走った先でまた瓦礫に塞がれていたらどうする?俺はここに隠れてUCBD隊の救援を待つ!」
「ここに留まるのは危険です。これは地震ではありません。シャドマイラの襲撃で柱が崩れる可能性があります。」
「そのリスクは分かっている!だが、命を預けるなら信用できる確信できる情報だ。お前みたいな未熟者の指示なんか従えるか!」
中年の男の怒りに、営業員は言葉を失い、集団全体が不安げな表情を浮かべた。その場の緊張感が増していく中、陽太が静かに声を上げた。
「あの、すみません……」
口論が一瞬止み、視線が陽太に向けられる。
「争はやめましょう。こういう時こそ、冷静にならなければなりません。落ち着いて対処方法を考えれば、状況を打破できるはずです。」
陽太の言葉に、中年の男は腕を組み、苛立ちを隠しきれない様子で顔を背ける。
「ほら、若僧の方がまともなことを言っているじゃないか。状況も確認せずに突っ走るのは命取りだぞ。」
しかし、陽太は営業員にも中年の男にも偏ることなく言葉を続けた。
「僕が言いたいのは、どちらの意見が正しいとかではありません。ただ、ここに留まるのも危険ですし、動かない限り状況は変わりません。それに、こういう時こそ集団行動が大事です。一人の指示に従う方が効率的だと思います。」
「好きにしろよ!自分の命は自分で守る。それに従いたい奴は勝手に付いて行けばいい。」
そう言い放つと、中年の男はその場に腰を下ろした。
「僕は営業員さんについて行きます。どうぞ、ご指示をお願いします。」
陽太は営業員を見つめ、深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。それでは、付いて来られる方はご一緒に。ここに残る方も、救援が来るまで安全を確保してください。」
そう言うと、営業員は陽太たちを引き連れ、速やかに走り出した。その直後、再び振動が起こる。
「なんだ、またか!」
頭上のガラス天井が崩れ、巨大な獣の足が踏み込んできた。柱が崩れ、天井が一気に落下する。
「なんてこった!!」
動きが遅れた中年の男が獣に踏み潰されぺちゃんこになった。近くにいたカップルの女性も走り去る途中で躓き、振り返った男性が叫んだ。
「奈美〜!!」
男性は崩れた瓦礫の下敷きになり、身を振り向いたカップルの女性が下敷きになった彼氏を見て、両手で口塞ぎって悲鳴をあげる。
「拓哉〜〜!!」
陽太たちは必死で逃げるが、女子高生が転んでしまう。
「わぁっ!」
陽太は立ち止まり、彼女のもとへ駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
彼女を引き起こしながら、優しく声を掛ける。
「ごめんなさい……こんな時に足がもつれるなんて。」
「気にしないでください。早く行きましょう!」
その時、再び瓦礫が崩れ落ちてくる。陽太は首を伸び見上げ、落ちて来た瓦礫を見ると叫ぶ。
「危ない!」
陽太は彼女を押しのけ、自分が瓦礫の下敷きになってしまった。
「大丈夫ですか!?」
女子高生が慌てて駆け寄る。
「僕の足が……動きません。先に逃げてください。」
「そんなこと、できません!」
「僕のことはもう良いから、あなたが助かれたら良いでしょう。親友と仲良しできれば良いんですね」
「このバカ、どうして名も知らない他人にそこまで考えるんですか、人が良過ぎますよ!」
また振動が起こし、瓦礫が崩して来る。
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