第18話 命を再燃の鼓動 ①

 陽太はショッピングセンター内で、避難シェルターを探していた。しかし空いている場所はなかなか見つからず、最終的に他の8人の男女と行動を共にすることになった。その中には見覚えのある顔が3人いた。先ほどゲームセンターで見かけたカップルと、ファストフード店で仲間とはぐれた女子高生だ。


 ショッピングセンター内には爆発音や巨大なゴラーテルトンの振動が続き、人々は怯えながら行動している。一行は、建物の主柱と壁が作る隅の空間に身を潜めた。吹き抜けの天井は鋼鉄のトラスで支えられ、ガラス越しに砂埃がちらちらと降ってくる。時折、ガラスが揺れる音が響き、緊張感が漂っていた。


「振動が収まるまで、ここで待ちましょう」


避難の指揮を取っているのは、30代の男性だった。彼はこの施設で働く売店の店員で、建物の構造や避難ルートに詳しいという理由で、自然と人々のリーダーとなっていた。彼は外の様子を確認しつつ、他の避難者を呼びかけていた。


一方、陽太たちのグループは中学生や女子高生、小学生、40代の中年男性など多様な顔ぶれだった。自然と若い学生たちは隅に集まり、守られる形になった。


女子高生は壁にもたれ、体育座りをして膝を抱えていた。その姿は不安げで、小さな声で愚痴をこぼしている。


「なんで私がこんな目に遭うのよ……」


陽太は心配そうに声をかけた。


「あの、大丈夫ですか?」


彼女は顔を上げた。細い丸いフレームの眼鏡をかけ、胸元まで伸びたツインテールの三つ編みが揺れる。その顔は白く、化粧をしていない素肌のままだが、どこか大人びた雰囲気を持っていた。

「あなた、誰?」


「僕ですか?ただの高校生ですけど……」


彼女は陽太のジャージを見て、不思議そうに問いかけた。


「そのジャージ、陵星高校のもの?」


「よく分かりましたね」


「スポーツ試合で見たことがあるのよ」


「そうですか。それより、さっき『酷い目に遭った』って言っていましたけど、何があったんですか?」


彼女は視線を逸らし、少し愚痴るように答えた。


「親友と大喧嘩して、その後シャドマイラに遭遇したのよ。最悪な一日だわ……」


陽太は微笑みながら言った。


「喧嘩した相手って、さっきファストフード店に一緒にいた人?」


彼女は目を丸くして陽太を睨みつけた。


「なに、それ。ストーカーなの?」


「ち、違います!たまたまその場にいただけで、君たちの話なんて全然聞いてないです。でも……きっと大丈夫だと思いますよ」


喧嘩の理由も分からず、愚直に笑いながら言った陽太に返す言葉があった。


「どうして、わかるの?」


陽太は笑顔で続けた。


「明日謝れば、きっと仲直りできるでしょう。実は、今日は好きな子に告白しましたが、振られちゃったんですけど。彼女は大きな夢を持っていて、友達として応援したいのに、何もできない自分がいます。きっと、彼女には嫌われているんでしょうね……」


陽太は自分のことを語るうちに、少女に睨まれていることに気づいた。


「あなたたちは親友でしょう? 話し合えるチャンスがまだありますから、何とかなると思いますよ?」


陽太は少女の仏頂面を見て意識が向き、首を縮めて恥ずかしそうに苦笑いを浮かべ、手で頭を掻きながらうつむいた。


「ごめんなさい、僕の話は参考にならないなら、忘れてください。」


陽太の素直で無邪気な様子は、小動物のように映った。彼女は呆れたように溜息をつき、少しだけ笑った。


「あなたも男なんだから、女の子一人に振られたくらいで落ち込むなんてみっともないですよ。」


「でも僕にとって、その子の笑顔は太陽みたいに眩しいんです。他の人なんて目に入らないくらい……」


「だったら、その子をぎゃふんと言わせるくらい輝く男になればいいじゃない!」


「僕はただ天体観測が好きな地味な男ですけど……」


少女はポンと指を差し、強い眼差しで言い放った。


「それはあなたが考えるべきことです。できないなら、諦めて背を向けてバイバイしかないでしょう。」


陽太は素直に少女の言葉を受け入れ、頷きながら柔らかい笑顔を浮かべた。


「そうですね……頑張ってみます。ありがとうございます」


「僕なんか、今日好きな子に告白して振られましたけど、彼女を応援したい気持ちは変わらないんです。だから、君もきっと親友と仲直りできますよ」


彼女はそっと視線を外し、不安そうに言った。


「それにしても、私たちこんなところで本当に助かるのかしら……シャドマイラ退治なんて普通1時間以内には終わるって聞いていたけど」


「たぶん、今回は数が多いんでしょうね」


「しかも、この振動……近くにいるってことよね?」


ドシン……ドシン……


遠くからまた振動音が響き渡った。巨大な何かが動く重々しい足音に似た音が、床を伝って足元を揺らす。


 女子高生の少女は小さく息を飲む。


 「近づいてる……シャドマイラじゃない? 本当にこのまま進んで大丈夫なの?」


 陽太は少女の不安げな顔を見つめ、優しく微笑んだ。


 「大丈夫だよ。きっと助かりますよ。UCBDクーリーバ隊がきっと来てくれます」


 その言葉に少女は一瞬だけほっとした表情を見せたが、すぐに真剣な顔つきに戻った。


 「……君、どうしてそんなに冷静でいられるの? さっき振られたばかりなんでしょう?」

 彼女の問いはどこか鋭く、陽太の心に軽い衝撃を与えた。


 「うん、まあ……そうだけど」


 陽太は苦笑いを浮かべつつも、続けた。


 「でも、今はそのことで落ち込んでる暇なんてないからね。みんなでここを切り抜けることが優先だよ」


 少女は陽太をじっと見つめた後、少しだけ微笑んだ。

 「ふーん、意外と頼れるじゃないの……」


巨大な足音が再び響き、地面が揺れた。


振動は次第に静まり、周囲の音が遠のいていった。


「揺れが収まったわね……」


ステップがしばらく止まり、振動も収まった。


 3分ほど、周囲は静寂に包まれ、近くに響いていた振動や音もほぼ消えた。ただ、遠くから微かに銃砲の音が聞こえる。何処かで別の個体を相手に戦闘が行われているのだろう。

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