第16話 シャドマイラ、再臨 ③

 八王子市の上空では、UCBDクーリーバ重装特務隊の戦闘マシンが飛び交い、激しい戦闘が繰り広げられている。


 レンジャー隊はゴラーテルトンが街に侵入する前に防衛陣を展開していたが、敵の数があまりにも多く、一部の個体が防衛線を強引に突破。特にゴラーテルトンの親玉は、大きく跳躍して防衛陣を簡単に飛び越えてしまった。


 襲撃してくるゴラーテルトンが散開しているため、UCBDの戦闘マシンは三機編成の分隊に分かれ、各地で敵を迎撃している。さらに、増援部隊を輸送する戦闘マシンが15機到着。元の防衛陣を中心に、北、南、東の3つの拠点に着陸しながら散在するゴラーテルトンを包囲し、殲滅ゾーンへと追い込む作戦を展開していた。これはUCBD指揮部が練り上げた戦術だ。


 UCBDだけでなく、公的機関や民間から派遣された能力者たちも戦闘に参加している。


 しかし、ゴラーテルトンの親玉はショッピングセンターを襲撃しながら、UCBDの攻撃をものともせず、新たな子分を次々と生み出していた。


 そんな中、一匹のゴラーテルトンαが突如進化を遂げた。頭から一本の角を伸ばし、背中からは無数の触手が蠢きながら生え出し、UCBD重装特務隊に襲いかかる。


「こちら304、ゴラーテルトンαがβに進化した模様!」


「各隊、散開しろ!食い止める!」


ビームライフルやマシンガンで触手を破壊する隊員たちもいたが、回避が遅れた者は触手に絡め取られ、高く持ち上げられて無惨にも生きたまま飲み込まれてしまう。


「ぐわあああああ!」


「隊長!増援を要請してください!」


目の前で仲間を失ったにもかかわらず、残された隊員たちは必死に戦い続けている。

その時、ゴラーテルトンβの背中にミサイルが直撃し、爆炎が広がった。上空では戦闘マシンが旋回しながらビームライフルで支援攻撃を行っているが、次々と他のゴラーテルトンたちも進化を遂げ、β型が合計6体出現していた。


そんな中、高度1000メートルの上空から、厚い雲を突き抜けて一機の白銀の戦闘マシンが姿を現した。UCBD科援隊の支援マシン「プロメテウス号」だ。


プロメテウス号の発射口が開き、音速の10倍で飛翔する6発のミサイルを一斉射出。それぞれのミサイルは地上のゴラーテルトン個体に命中し、展開ユニットが高エネルギーを放射。電流を流すトラバサミのような効果で、ゴラーテルトンの動きを封じた。


「アッガアアアアアア!」


作戦は順調に進んでいるように見えたが、プロメテウス号は更に追加の6発を射出。副操縦士のエリックがミサイルの展開状況を報告する。


「エネルギーウェブミサイル、正常に作動中。地上部隊が順調に攻撃を続けています。」


しかし、モニターには「ゴラーテルトンγ」の文字が表示され、進化した親玉の姿が映し出されていた。それはこれまでのデータには記録されていない、突如変異した新型だった。


「まさか、3か月前に消息を絶った個体が進化したのか?それとも、完全な新種……?」


冷静を保とうとする瑶妤たまよの目つきは鋭さを増していたが、操縦桿を握る手は微かに震えていた。後部席に座る大原博士が指示を出す。


「リー君、グラットン君。今こそプラズマバスター砲の実用テストを行う時じゃ。」


エリックが問いかける。


「博士、こんな戦闘中に実験ですか?」


「そうじゃ!あの新型を倒さねば、この戦いに終わりはない。準備を急げ!」


瑶妤とエリックは指示を受けて行動を開始した。


「プロメテウス号、速度ゼロに抑えます!」


「了解、晴れ爆弾を発射準備!」


機体が静止し、浮遊エンジンで宙に留まる。瑶妤が指示を出す。


「グラットン君、今よ!」


「晴れ爆弾、発射!」


巨大な爆弾が発射され、先方800メートルの空域で爆発。圧縮された液体窒素が広がり、八王子市上空の厚い雲を吹き飛ばして直径4キロメートルの空間を作り出した。


空が晴れると、夕陽がわずかに地平線に残り、ほのかに橙色の光が空を染める。その中に現れたのは、龍のようにうねりながら空を泳ぐ巨大なオーロラだった。


瑶妤は思わず驚きの声を漏らす。


「これが……オーロラ?」


エリックも仰天した様子で空を見上げた。


「なんて壮大なんだ!こんなオーロラ、初めて見た!」


一方で、大原博士はプラズマバスター砲の準備を急いでいた。計器にはエネルギー蓄積の数値が次々と上昇していく。


「よし、調子は上々じゃ!リー君、4分後に高度を下げるぞ!」


「了解しました!」


戦局は新たな局面を迎えようとしていた――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る