第15話 シャドマイラ、再臨 ②
建物の崩壊に伴う激しい揺れが止まらず、陽太はうまく立ち上がることができない。壁に背を預けてしばらくその場に留まっていると、やがて地震が静まった。
突然、陽太の鞄がブルブルと震え出す。彼は慌てて鞄を開け、マナーモードにしていたMPデバイスを取り出した。
デバイスの中央にある円盤状の部分が光を放つと、空中に陽菜のホログラムが映し出される。
着信ボタンを押して応答しようとした次の瞬間、怒鳴り声とともに陽菜の顔がディスプレイ一杯に映し出された。その表情は怒りで眉を吊り上げ、目を大きく見開き、まさに迫真そのものだ。
「出るのが遅い!!なんでメッセージに返事をしないのよ!?バカなお兄ちゃん!!」
雷のような罵声に耳を痛め、陽太はデバイスを頭から離し片目を閉じながら画面越しに応答する。
「ごめん、ちょっと考え事をしていて、デバイスの確認を忘れてた……」
陽菜の背後には家のリビングルームが映っている。
「今どこにいるの?シャドマイラが街を襲ってきてるのよ!お母さんがすごく心配してるわ!」
陽太は言いにくそうに苦笑いを浮かべながら答える。
「えっと……今はショッピングセンターにいるけど……」
「えぇっ!?本当に!?」
その瞬間、ゴラーテルトンの咆哮が響き渡り、建物全体が激しく揺れた。逃げ惑う人々の喚き声と泣き声が入り混じり、さらにショッピングセンターのどこかで崩落音が響く。それに続いて、建物全体が停電し、周囲は暗闇に包まれた。
「お兄ちゃん、逃げて!」
「わかった!避難するから、一旦切る!」
冷や汗を滲ませながらデバイスの通話を切ると、陽太は深呼吸して気を引き締め、周囲の状況を確認した後、慎重に動き出した。
駐輪場に向かう通路は天井に大きな崩落の穴が開き、瓦礫が行く手を完全に塞いでいる。陽太は反対側へと向きを変え、全力で走り出した。
地下に直通する避難シェルターをいくつか回るが、どこもすでに満員で入り口は閉鎖されていた。
その時、耳に飛び込んできたのは子どもの泣き声だった。
「……お母さん、どこ……?」
声の方を振り向くと、小さな女の子が一人で泣いていた。年齢は五、六歳ほどだろう。ピンク色のコートを着ており、足元には小さなぬいぐるみが転がっている。赤いリボンのカチューシャを付け、長い髪を下ろしたその姿は、見るからに迷子だった。
周囲を見回しても、親らしき人の姿は見当たらない。陽太は迷った。何ができるわけでもない自分が声をかけていいものか。しかし、こんな状況で放っておくわけにもいかない。意を決して、陽太はしゃがみ込み、優しく声をかけた。
「えっと、大丈夫?」
女の子は泣き顔のまま陽太を見上げ、その目には恐怖というよりも不安の色が浮かんでいる。
「お兄ちゃん……お母さんがいないの……」
「そっか……迷子になっちゃったんだね。名前は?」
「みらい……」
女の子の名前を聞いて、陽太は一瞬固まった。偶然だろうか――陽太の心にある記憶が蘇りそうになる。だが、それを振り払うように何度も首を振り、自分を叱咤する。
――こんな時に何を考えてるんだ!しっかりしろ、僕!
「みらいちゃんね、もう怖がらないで。お兄ちゃんが一緒にいるから、お母さんを探そう」
女の子は小さく頷いた。
「うん……」
陽太が女の子を連れて避難していると、遠くから女性の声が聞こえてきた。
「みらい~!どこにいるの!?」
「ママ!」
「みらい!」
片腕に怪我をしているらしい女性の姿を確認すると、女の子は彼女の元へと駆け寄った。女性は娘をしっかりと抱きしめ、安堵の表情を浮かべる。
「無事でよかった……」
「みらいちゃんのお母さんですか?」
「はい、そうです。ありがとうございます……」
「すぐに避難しましょう。」
親子を連れてシェルターを探していると、まだ扉が閉じられていないシェルターを見つけた。陽太はインターホンを押し、中の人に尋ねる。
「すみません、中にまだ空きがありますか?」
「あと一人だけなら入れます。」
親子の表情に戸惑いが浮かぶのを見て、陽太は彼らを優先することに決めた。
「あの、怪我をされたお母さんと子どもがいます。その二人を入れてもらえますか?」
「少々お待ちください……わかりました、お二人をどうぞ。」
扉が開くと、10人ほどが乗れるエレベーターのような空間が現れた。
「お二人ともどうぞ中へ。」
女性は申し訳なさそうに陽太を見つめて尋ねる。
「あなたはどうするんですか?」
陽太は微笑んで言った。
「心配しないでください。僕は別のシェルターを探します。どうぞお先に。」
「ありがとうございます。本当に……」
女性は深々と頭を下げた。女の子も「お兄ちゃん、助けてくれてありがとう」と可愛らしい声でお礼を言う。
シェルターの扉が閉じ、親子を乗せたカプセルが地下へと降りていく。その後、入り口は完全に封鎖された。
「さて、僕も次のシェルターを探さなきゃな。」
陽太は気を引き締め、再び動き出した。
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