第40話 蚊帳の外
「そういえばどうしてカロルス君がここにいるの?」
奥様がさっきの私と同じ質問をした。そりゃ気になるよね。
カロルス様はさっき私に言ったのと同じ答えを返した。当たり前だ。聞くたびに答えが違ってたらそれはただの嘘だ。
「そう。アレックス様が……」
「うん。エインピオ家が動かない限り、モエの命の保証なんて誰もしないだろうからって」
「それはその通りね」
だよねー。そりゃ戸籍もない異世界人だもんね。
「なら安全なうちに屋敷へ帰さないとね」
え? 帰す? せっかく奥様に会ったのに?
「あとはわたくしがやっておくから、モエはカロルス君と一緒に帰りなさい。セーラスもあなたなら乗せてくれるでしょう」
「当たり前だ! お前と違って危険がないからな」
プチサイズになった馬がカロルス様のカバンからひょこっと顔を出して酷い事を言ってる。
「あら、そんなにわたくしが気にくわないの? 悲しいわ。では、明日の朝食から、いえ、今日の夕食からお野菜だけにしようかしら」
「ごめんなさい。やめてください。肉も食べさせてください!」
「では文句言わないで乗せてくれるわね?」
「はい。乗せます」
やっぱりこの馬弱い。いや、奥様が強いのか?
「だから安心してお帰りなさいね、モエ」
穏やかな声で命じられる。
それが安全だって事は私にも分かる。
でもなんだか胸のどこかがもやもやする。
これ、私に関する事なんだよね。狙われてるの私なんだよね。なのに蚊帳の外なの?
奥様に全部任せて自分は安全な所にいろと?
それでいいのか、モエ? いや、いいわけない!
「モエ、余計な事を考えるのではありません! カロルス君、この子を頼んだわよ」
さっきより声が低くなってる。
でもさー……。
「でも何だというの? あなたろくにマナは使えないでしょう? 足手まといという言葉は分かる? 異界にはそういう言葉はないのかしら」
……あるけどさー。
「あるなら分かって頂戴。ね、カロルス君」
あっ! カロルス様を味方につけようとしてる。ずるい!
「カロルス君、お義姉様の言うこと聞けるわよね?」
しかも微妙に脅してるし。
それを聞いてカロルス様は苦笑している。
「わかってるよ。そんな言い方しなくても僕だって最初からそのつもりだよ。モエをセーラスに乗せて連れて帰ればいいんだろう。あとは僕の住んでる離れで引き留めておけばいいんだよね?」
「ええその通りよ、いい子ね」
「仕事は半休取ったし、問題はないから」
「そう。だったら安心ね」
「なんか勝手に二人で話を進めてる!?」
おまけに引き留められる事になってるし! カ、カロルス様の家で!?
「当然でしょう?」
「当たり前だろう?」
この義姉弟しっかり揃ってる。ガーン! さすが幼馴染!
そ、それにしてもカロルス様の家で!
という事は奥様が戻るまでカロルス様に見張られながら、って事だよね?
お、お掃除とかしなくていいのかな。いや、そうじゃなくて。
つまり、カロルス様と二人きりって事? 未婚の男女が。いいの? それ。
これって旦那様の思惑にどっぷりと……いやいや、そういう事は考えない!
ふと視線を感じた。そちらを見ると奥様がじっと私を見てる。
へ、変な事は考えてないはず……いや、考えたね、いろいろ考えた! うわー! そうだ! 全部筒抜け。あああああ!
「モエ、なんか挙動不審だけど、どうした?」
私のパニクりようにカロルス様が不審者を見る目を向ける。違うんです、カロルス様! 意識なんか、意識なんかしては!
「落ち着きなさいな、モエ」
奥様がおかしそうに笑いながら言ってる。
「モエはどうしたの?」
「それがね、使用人だから貴族の家でただくつろぐのに罪悪感があるらしいの」
とりあえず、誤魔化してくれた。……た、助かります。
「お掃除はしなくていいのかな、とか考えてたわ」
いや、それは嘘じゃないけど……。
「別に掃除はしなくていいよ。きちんと客としてもてなすから」
あっさりと言われる。私の意見は丸無視ですか。そうですか。
「ところで、さっきの奥様の口ぶりだと、私にもマナがあるような言い方をしているように聞こえたんですが……」
この話題はきついので話を変える。
奥様は困ったように苦笑した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます