第39話 再会
誰? 私達見つかったの? 捕まったの!?
そう思っておそるおそる後ろを振り返る。そうして息を飲んだ。だって思ってもみない人がいたから。
何を言えばいいのか分からない。そもそもこの状況で声を出していいの?
「今は他の人からは見えないように、そして声も聞こえないようにしているから好きなだけ声を出して頂戴」
「奥様っ!」
思わず飛びついた。なのに奥様は私を受け止めてくれなかった。おかげでぶつかる形になってしまった。
ひ、ひどい……。
「子供みたいね」
おまけにクスクスと笑われた。
「意地が悪いな、お義姉様。背後にいきなり現れるから何かと思ったよ」
カロルス様が明らかにホッとしたような苦笑いを浮かべながら言う。そりゃ敵さんに一番見つかったらやばいのは不法侵入してるカロルス様だもんね。
「再会した第一声がそれなの? 大勢の監視の目を潜り抜けて頑張って逃げ出してあなたたちに会いに来た義姉をいたわる言葉は出てこないのかしら」
冗談めかして言ってるけど、真実なんだろうな、それ。それも毒吸ってたんだしな。
あれは大丈夫だったのかな。ピンピンしているように見えるけど、まだダメージが残ってたりするのでは? やせ我慢とかしてそうだし。
「あの、奥様、体調は大丈夫なんですか?」
不安に思いながら奥様を見る。奥様は呆れたように笑った。
「前に話したでしょう。少量ならわたくしにはコカトリスの毒は効かないの。もしかして忘れていたの?」
え!?
そ、そういえばそんな事を言ってたっけ。
「で、でも、あの時、真っ青な顔で倒れてたじゃないですか!」
「そう見せてただけに決まってるでしょう。あいつらを油断させるために罠にかかったふりをしたのよ。もちろんモエのこともガードしてたわ」
決まってたのか……? 決まって、る、のか? わからん。
でも私がピンピンしてたのは知らぬ間に奥様に守られてたからなのか。バリヤーとかでも張ってたのかな。ありがたいな。
「大体、あなたが心配しすぎていたから、指を動かして『安心してね。生きていますよ』ってこっそりと示したのに、あなたは『ただの願望かもしれない』で片付けるんですもの」
そういえば指動いてたっけ。
いや、あれ、私を心配させないように最後の力を振り絞って必死で動かした指って可能性もあったよ!
「わたくしに限ってはそんな可能性はないの」
そ、そうですか。何なんだよ、もうっ!
「そういえばお義姉様は毒慣らしもしてたね」
カロルス様が納得したような顔をしてる。でも聞こえてきた言葉はどこか物騒な雰囲気だ。
「ど、どくならし?」
「弱い毒を少量ずつ摂取して体に慣らして行くのよ」
……よく分からないけど、予防接種の毒バージョンみたいな感じ?
いや、でもそんなフィクションみたいな事ある!? 普通やってる途中で死なない? それ。
「まあ、危険ではあるわね。魔法使いくらいしかやらないし、そうだとしてもあまりおすすめはしないわ」
「だったら奥様はなんで……?」
「わたくしは第一等貴族の夫人だし、魔法でも実力があるし、狙われやすいのよね」
そ、そうですか。貴族社会も、魔法使い社会も、なんか怖いな。
でも、その訓練? のおかげで奥様が無事だったのは良かったと思う。
「それにしても、あんな三文芝居に普通騙される? 聞いてて正直呆れたわよ」
「……モエは単純だから。ほら、カタリナにもずっと騙されてただろ」
「……ああ、そうね」
ちょっと、エインピオ義姉弟! 酷くありませんか?
「だってその通りでしょう。わたくしが慣らしている毒というのは基本的に毒殺に使われやすいものなの。誰だって思いつくメジャーな毒だわ。あれだけでモエが犯人って決めつけるですって? 冗談も休み休み言って欲しいと思ったわ」
そう言われるとパニクってた自分が恥ずかしくなるんですけど。
「是非とも反省してちょうだい。あなたすぐ詐欺に遭いそうで心配になったわ」
厳しい。でも、そりゃそうだよね。
「でも見破ったとしても、あれだけ囲まれてたら逃げられないと思います」
「そうね。だからあなたのするべき事は、騙されたふりをしてわたくしが来るのを大人しく待つ事だったのよ。まあ、あなたが信じたからこそ、あいつらは安心して図に乗って、こちらが動きやすかったというのはあるかもしれないけど」
「でも、あんなのに囲まれたのは初めてだったので」
「平和な所なのね。あなたの故郷は」
しみじみと言われる。
うん。日本は平和だった。世界の中でも結構安全な国だって言われてるもんね。
海外ではバスで寝てただけでカバンの中のお財布をすられるんだっけ。強盗も多いって聞くし。
「……なんだか、あなたが平和ボケしている理由が分かった気がしたわ」
だから呆れた顔で言わないで。これから気をつけますから!
心の声だったので、よく分からない顔をしているカロルス様に簡単に説明する奥様の声を聞きながら、私は静かに反省したのだった。
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