第37話 突拍子もない考え

「そもそもどうやって私達がこんな目にあったのを知ったの?」

「さっき言っただろ? お義姉様がお兄様に連絡をとったって」


 確かに聞いた。

 でも、そんな余裕あったかな。思い返してみても、助けを求めるタイミングというものが分からない。


「ベアトリス義姉様はこうなる事を多少は予測してたみたいだな。だから魔法で連絡出来るルートは確保してたらしい」

「……どうやって?」

「マナがない人に説明しても分からないと思う」


 それはそうかもしれないけど、言い方ってものはないの?


「ただ、お義姉様はこの国の貴族夫人だから、国から救助命令は出せるけど、モエはこの世界の人間じゃないから、間違えなく後回しになる。酷い場合だと見捨てられる可能性もあると思う。だからお兄様が僕にモエを先に保護しろって命じてきた」

「旦那様が……?」


 つい聞き返してしまった。


「嬉しいのか?」


 カロルス様が冷たい声になった。きっと私が『きゃー! 旦那様が私を助けようとしてくれてるなんて感激!』とか思ったとか考えたんだと思う。


「いや、ただ単に確認してるだけだけど」


 誤解されたままは嫌なので素直に答える。カロルス様はホッとしたように息を吐いた。私信用ないな。


「なんていうか、これが『エインピオ家全体で保護する』って事なのかな、って思ったの」


 素直に言うと、カロルス様は『なるほどね』とつぶやいた。なんとか分かってもらえてよかった。


「でも、助けに来てくれたのは嬉しい。でなかったらまだ芋虫状態だっただろうし」

「芋虫……」


 無意識に二人で同時に私兵さんを見る。今は彼がその芋虫状態だからだ。

 うん。かっこ悪い。思わず二人で笑ってしまった。多分起きてたら睨まれるだろうけど、気絶してるから大丈夫。


「でも、どうしてカロルス様が?」

「お兄様が決めたんだよ。モエを助けに行くには僕が一番だって言ってね。エインピオ家の私兵を使ってもいいけど、モエとはあまり面識がないから落ち着かないだろうって理由だと思うよ。僕はお前と結構顔見知りだし、ある程度腕も立つし、って事だろう」

「憎まれ口ばっかり叩きますけどね」

「お兄様に手を出す最低女だと思ってたからな」

「そんな事しないからね!」

「分かってるよ。セーラスのたてがみ掴んでまで怒るんだ。心底今の状況を嫌がってるんだってあれで分かるよ」


 分かってくれるのはありがたい。

 ……でも、さっきちょっと疑ってませんでしたか?


 それにしても旦那様はなんかの機会があれば私とカロルス様を会わせようとするよね。


 だいたい、最初にカロルス様に言った『いい子みたいだよ』って何なの。まるでお見合いおばさんみた……いなセリ……フ。



 ……お見合い……おばさん?



 自分の冗談で思った言葉に時が止まる。


 ああ、旦那様は男だからお見合いおじさんか。でも若いし、おにいさん?

 お、おに……いや、そうじゃなくて!


——『乙女が来たから一度会ってみるといい。いい子みたいだよ』って、わざわざ離れまで言いに来たんだ。


——モエを助けに行くには僕が一番だって言ってね。


 カロルス様が話す旦那様の言葉を聞くに、私があの人の相手だって全く考えてないみたい。自分の相手だと思ってたら我先に助けに来るよね。


 だけど、旦那様はカロルス様をよこした。大切なユニコーンまで乗り物として託してまで。


 そういえば、奥様が『ユニコーンの乙女召喚はその主人の希望に沿う』って言ってた。それは裏を返せば乙女の相手がユニコーンの主人本人じゃなくてもいいって事で……。


 でも。でも……。まさか……。まさか!?


 口が変な形で開いたまま固まる。


 とりあえずちらっとカロルス様を見る。


「モエ、そろそろ落ち着いた? お義姉様を探して合流しよう。外の騒ぎも収まってきてるみたいだから」

「あ、ああ! う、うん!」


 変な事を考えてたせいで声が裏返った。


 そうだ。今はこんな事を考えてパニクっているより、奥様を助ける方が大事だ。


 ちょうどカロルス様もいい感じに誤解してくれたみたいだし、ちょうどいい。そういう事にしておこう。

 ち、ちょっとだけ意識しちゃったなんて言えないし。


「行くよ、モエ」


 カロルス様が手を差し出してくる。あまり意識しすぎないように気をつけながら、自然に見えるようにその手を掴んだ。

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