第36話 ユニコーンと乙女

 私に見つめられたポップコーン馬は戸惑った顔をしている。


「ど、どうした? 乙女。何故私を見る?」

「ユニコーンの乙女って何なのか教えて欲しいんだけど。」

「い、今更か?」


 真剣な目で見てたのにキョトン顔されると腹立つ。


「そりゃこんな目に遭ったら何かあるって思うでしょ」


 私の言葉に『ごもっとも』というようにカロルス様がうんうんと頷いた。


「僕も気になる」

「ほら、カロルス様も気になるって」


 とりあえず味方が増えたので攻めておく。


 馬は面倒くさいというようにため息をついてるけど、元凶はあなたですからね!

 ジトー、と見てると、馬は諦めたように話し始めた。


 はるか昔の時代、まだ魔獣達は今のように『魔獣』、『幻獣』、『害獣』というように区別されてなかったそうだ。そして等しく素材狩りの対象だったと。

 そして狩られ続けるユニコーン達はなんとかして人間に取り入ろうと色々と考えをめぐらせたそうだ。

 それで考えたのが、魔法使い達と相性の良い女性を異界から連れてきて伴侶として差し出すことだったらしい。


 いや、意味が分かんない。自分達を守るために異世界から人をさらうな。


 なんだか『私たちは可哀想だろう。よよよ』という顔しているけど、誘拐してる時点で同情できないんだよなー。

 ああ、可哀想だね。、という感想しか出てこない。


 そしてユニコーン達の思惑通り、魔法使いは乙女と引き換えに、彼らを狩るのをやめてくれたそうだ。


「魔法使いさん達、美女には弱いんだ」

「……それはさすがに人それぞれなんじゃないかな」


 ポツリと呟いたらカロルス様にツッコまれた。


「ただ、上手くいってたのは最初だけだった」


 なんか馬が芝居かかった悲壮な声で続きを話し始めた。


 どうやら慣れた魔法使い達は、乙女との相性や、彼女の美しさではなく、そのユニコーンから授かったマナに着目するようになった。

 マナを利用され、飼い殺しにされたり、魔法の実験に使われた乙女達がたくさんいたようだ。


 その当時、魔法使いが残した本には乙女の有用性について書かれたものもたくさんあるのだとか。


 そして、乙女の中には狡猾な女性もいた。魔法使い達をたぶらかし、ユニコーンと仲良くするふりをした上で、彼らを騙し、魔法使い達に角を折るように指示する人もいたようだ。


 ……それ誘拐された仕返しじゃないの? と乙女な私は思ってしまうんですが。


 それでも、そんな事をされたらユニコーンにとってはたまったものではない。そういう女性は怒りを込めて、魔法使い共々角で突かれ殺したそうだ。


 それでそんな悲しい失敗が続いたので、ユニコーン達は徐々に乙女を召喚するのをやめたのだとか。

 今はユニコーンは魔法使いを背中に乗せて飛ぶことで貢献するようにシフトしているそうだ。


 そして、魔法使いの中では乙女は珍しい生き物として伝説化していたらしい。


 たくさんマナがあって、使い道があるって……。


「えっと、つまり、私、魔法使いたちに魔獣扱いされてるって事?」


 話を聞いて出した結論にカロルス様が息を飲んだ。


——魔法使いとしてはいい素材になりますからね。


 前に害獣をいっぱい狩ってきた奥様の言葉が蘇る。


 私もそんな風に見られてたの?


——この娘は異界の乙女なのだからもっと優しく接して差し上げろ。


 バルバルザーレ卿が行ってたあの言葉は『貴重な素材を傷つけるな』ってこと?


 じゃあ、どうしてあんな形で捕まえたの? 犯罪者扱いしたら価値が下がって良くないのでは?


 あ、そうか。『害獣』か。


 貴族夫人を殺そうとしたという容疑があれば、私を『害獣』扱い出来るって事だ。それで私を殺す正当性を作ろうとしたんだ。


 そんなのって……。


「……酷すぎるな」


 なんか心の声が男の声で聞こえてきたんだけど。しかもめちゃくちゃ男言葉……ってカロルス様か。

 どうやら同じ結論に至ったみたいだ。


「その魔法使いから奥様は守ってくれたって事? 奥様も魔法使いなのに、どうして……?」

「それだけベアトリス義姉様がまともだって事だろ。まあ、本人に聞いてみないと分からないと思うけど」


 まとも、かぁ。


 恋敵候補——そんな気は全くないけど——を殺さずに保護するってすごい事だよね。

 自分を下げる噂まで流して、私を守ろうとしてくれたんだよね。本当に憎しみもあるかもしれないけど、しっかり悪役に徹して……。

 奥様酷いとか、イジワルお姉さんとか思った自分が恥ずかしくなる。


「奥様、大丈夫かな?」


 つい心配になって呟いてしまう。


「大丈夫だと思うよ。とりあえず、拘束されてる部屋にはいなかったんだろう。だからこいつらが血眼になって探してるんだ」

「でも体調が悪くてフラフラしていたりするかもしれないじゃない」


 なんとか逃げだせたけど、毒にやられて廊下で倒れてたなんて考えたくもない。


「ここだけの話だけど、お兄様に魔法で連絡取れるくらいだから大丈夫だと思うよ」


 カロルス様が小声で言ってきた。


 連絡取ってたんだ。

 奥様、いつの間にそんな事してたんだろう。ここで捕まってすぐに動いてたんだろうか。


 それより動いていたといえば。


「カロルス様はどうしてここに来てくれたんですか?」


 これこそいまさらな質問かもしれない。でも、聞かずにはいられない。


 カロルス様の目をしっかり見ながら私はその答えを待った。

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