第33話 地下室で
なんだか寒い。
よく分からないけど目を開ける。でも何も見えない。真っ暗だ。目が慣れてないから天井すら見えない。
私、どうしたんだっけ? っていうか体痛い。おまけになんだか手足が動かない? 縛られてる感覚がするような。
そこまで考えて思い出した。奥様が馬車の中で変な霧で倒れて、私が第一容疑者としてこれから取り調べを受けるんだ。
それで殴られ蹴られて気を失ったんだっけ。
きっと、それでそれまでの間、ここに閉じ込められてるんだ。そういえば地下室に送れとかバルバルザーレ卿が言ってたっけ。
それにしてもこんなにぎゅうぎゅう縛ったのはどうして?
私、何もしないよ! 『バルバルザーレ卿! よくも私を疑ったな! 倒してやる!』とか言ってナイフ持って襲いかかったりしないよ!
大体、ナイフどころか護身用の武器とかいうのも持ってないし。
しかし、こんなに縛られてトイレに行きたい時はどうすればいいんだろう。行きたいです! って叫べばいいの? それはちょっと恥ずかしいんだけど。
いや、別にトイレに行きたいわけじゃないけど。
それにしてもその取り調べってやつ始まらないな。私放置されてるのかな。
でも、奥様の命の方が大事だよね。今頃は必死に救命しているはず。
ただ、あの人が奥様にいい感情持ってないのが気になる。前に忌々しいとか言ってたし。
……え? そんな人に預けて大丈夫? 奥様無事だよね?
それにしても、あの毒ガス? は何だったんだろう。
あの人の領地で起きたから、本来ならあの人が一番怪しいよね。あんなにテキパキとしているのおかしいし。
だって第一等貴族夫人だよ。いわゆる公爵夫人みたいな人でしょ? そんな人が倒れてたらまず助ける事にならない? 犯人探しより、死にそうな人の命のが大事でしょ。いや、犯人探しも大事だけど。
やっぱりあの人怪しい気がする。
私、あの人に罪をなすりつけられたのかな。
あの騎士さん達の中では私が犯人なのは確定なのかな。カタリナの証言もあったもんね。
カタリナ、バルバルザーレ卿の助手って言ってた。
と、いうことはカタリナはバルバルザーレ卿が奥様に送ってきたスパイとか間者とかそういうやつ?
もしかして、カロルス様はそれに気づいてたのかな。それであの時糾弾してた?
じゃあ、私、カロルス様に酷いこと言っちゃったの? 最低とか。
もしかしたらカタリナはカロルス様に近づいて何かしようとしてたのかな。何かはさっぱり分からないけど。
こういう何も知らないってのが『脳内お花畑』なんだろうな。
逃げたいけどできない。ギッチギチに縛られてるから。芋虫かってくらい。
しかも猿ぐつわまで咬まされてるし。徹底ぶりがすぎる! おかげで『うーうー』しか言えない。
こういう時、漫画やアニメやラノベだったらするっと縄が抜けるのに。主人公が縄抜けの術を持ってたりしてさぁ。
不思議な力で縄が切れたり。
私にも出来るかな。やってみよう。
切れろー! ちぎれろー!
……ダメだ。全然切れない。ただ虚しいだけ。
ねえ! 『異界の乙女』にはチート能力とかないの? それでわざわざ呼び出した意味ある? ないよね。
あの役立たずポップコーン馬め!
って怒っててもどうにもならないよね。
とにかく、もう一回何かでないか。やってみよう。
お願い。ふしぎな力! 縄をちぎって!
あれ? 何か出そう? エステッラ様と約束した時のような何かが……。
でも、それはすぐに消えた。消えたというか、体の中に押し込められたというか。
誰だ? バルバルザーレ卿か?
念のためもう一回試してみる。でも結果は同じ。いや、指にちょっとピリッとしたものが走った。静電気みたいな。地味に痛い。
ひどくない? もうやるなって事? あのクソジジイ!
と、いうか何で私がこうやってぐるんぐるんに縛られてなきゃいけないの? 自分の罪は自分で償え!
だいたい、ヒゲの手入れくらいしろ! みっともないんだよ! それから——。
というようにひとしきりバルバルザーレ卿の悪口を心の中で羅列してみる。あいつは奥様みたいに私の心の声を聞けるわけないし。
今、私は奥様に隷属されてるから重複隷属はされないと思うんだよね。たぶん……。
そんな風に時間をつぶしていたら上の方が何かバタバタしている音がした。
今度は何? と思ってたらドアが開いた。うわ。眩しい。そういえばここは地下室だから外は明るいんだ。
「ふん、乙女はいるな」
さっき私を蹴った騎士さんだ。でもさっきと服がちょっと違うような気がする。そして後ろにも別の騎士さんがいる。この人の部下さんかな?
「お前、エインピオ夫人を匿ったりしてないよな?」
思わず『は?』って言いそうになったけど、猿ぐつわされているせいで『うぐ?』みたいな声になってしまった。
それにしても匿うって? まるで奥様が悪者から逃げてるみたいじゃない。やっぱりこいつらが奥様に何かしようとしたのでは?
「おい! 何か言え!」
苛立ったのか怒鳴られたけど、私ふぐふぐ状態なんですけど。喋れない。
「ふぐふぐふぐふぐ。ふぐーっ!」
とりあえず『何か』言ってみた。
騎士さんは私をしばらく睨んでから、チッ、と舌打ちをした。
あなたが縛って猿ぐつわを噛ませたんですよ? いや、あなたの部下さんかもしれないけど。
「ふん。いないならいいんだ。おい、別の場所を……」
彼がそう言いかけた瞬間、その後ろから白い何かが飛びかかってきた。
あっという間に騎士さんと部下さんは気絶してしまう。
何だろうと思ってそちらを見る。そして目に入ったのは毎朝おなじみの金色の角だった。
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