第28話 付き添い命令
例のお客様の事は直接は話さない。なんとなくそれが私と奥様の暗黙の了解になっていた。
下手に突っついて恐ろしい結果になったら嫌だし。
私に関しては何もないのは分かる。だけど、前の乙女? っていうのがいる以上、やっぱり触れない方がいい気がする。
「そうだ。モエ、明後日、わたくしは魔法使いの集まりに行くのだけれど、その時にあなたを同行させようと思うの」
そんなある日の朝の挨拶で奥様が変な事を言った。
なんで? なんで私? 付き添いなら専属さん達では?
きょとんとする私に、奥様は苦笑いを浮かべた。
「乙女の事が軽く魔法使いたちに知れ渡ってしまってね、あなたを見たいという方が大勢いるのよ。だから明後日、あなたをお披露目とまではいかないけど、見せようと思うの」
私を見たいって、私は見世物の動物ですか?
「いいわね?」
威圧感たっぷりで微笑む奥様。これ選択肢が『はい』と『はい』のやつじゃん。
「……はい」
正しかったようで、奥様が『よくできました』という感じで微笑んだ。
***
専属さんではなく私が奥様に同行する事は、その日のうちに屋敷内の使用人たちに知れ渡った。
奥様付きお掃除メイドになった時はそんなにきつい目で見られなかったけど、今回はそうではない。
「モエ、なんであんたが奥様に同行するの? 旦那様にでもねだったの?」
「いいえ、旦那様には会ってませんから」
「嘘ね、こっそり会ってるんでしょう」
「会ってるわけないじゃないですか、仕事があるのに!」
夕食のフライドチキンを食べながら先輩たちに詰められる。お願い。食事くらいは和やかに食べさせてー! 今日も仕事疲れたのに!
久しぶりに同席したカタリナが『まあまあ』となだめてくれてるけど、この人達の勢いは収まらない。
「じゃあなんで?」
「乙女が見たいのだそうです。だからただの見世物です」
そう言ったとたん、みんなから笑いが巻き起こった。でも好意的なものじゃない。
「そうね。あんたには見世物がお似合いよね」
「楽しそうね。羨ましいわ。見世物って楽しそうじゃない」
「お人形さんみたいよね。素敵だわ〜!」
なんかくるっと意見が変わった。名誉な仕事じゃないって分かった途端にこの人達は……。
まあ、私に好意的なじゃい人なんてそんなものか。そりゃそうだよね。
「大変だね、モエ。頑張ってね」
カタリナが、ぽん、と肩に手を置いた。
見捨てられた? 他人事みたいに。他人事だよね。
恨めしい目で見ると、『ごめんごめん』と軽く返ってくる。
「でも、奥様の命令には逆らえないじゃない。私も代わってあげたいけど、そんな事情があるなら出来るわけがないし」
それはそうだよね。私指名されてるもんね。
それにしてもやっぱり乙女って貴重なんだな。見たい人が出るほどに。
でも、私ってただの人なんだけどな。
とりあえず気合いを入れておかないと、そう思って、チキンに思い切りがぶりとかぶりついた。
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