第23話 ユニコーンのお仕事

 いつも通りお掃除していると、ヒヒーンという鳴き声が聞こえた。


 あれはこの家の馬の声じゃない? なんで今、あいつの声が?


 あ、掃除のために窓を開けてるからか。でも、なんか空から聞こえたような気がするけど。気のせい?


「ああ、セーラス様が出かけたのね」

「どこにですか?」


 お掃除の途中だったけど、ジャズミーナさんが話しかけてくださったので答える。ジャズミーナさんは私に仕事の仕方を教えてくれる。どこに気をつけなきゃいけないかとか。親切だし丁寧だし、正直ありがたい。

 こういう質問にも答えてくれるし。


「王都に旦那様を迎えによ」

「へ?」


 そんな事初めて聞いた。


 ジャズミーナさんによると、旦那様は毎日、この領地から王城まで出勤しているそうだ。次期宰相候補として王太子様の所でバリバリ働いているらしい。


 エインピオ家は王都にも屋敷を持っていて、社交の時とかはそこに泊まるけど、普段はここの領地に住んでいる。普通に王都には通える距離だからだ。

 それでもお隣の領地とはいえ、王都は馬車で通うには少しばかり遠い。だから毎日ユニコーンで出勤しているのだとか。馬車とユニコーンってどう違うのかよくわからない。どっちも馬だと思うんだけど。遠駆けみたいな感じ?


 ユニコーンは自家用車だった。しかも送ったら自力で家に帰り、夕方にまた迎えに来るというハイスペックな自家用車。

 かなり燃料には文句言うけど。


「セーラス様ってそんな役割だったんですね。旦那様は大助かりでしょうね」

「そうね。旦那様を送って行った帰りに乙女を連れて帰ってくるなんていう意味不明な事をする事もあるけどね」


 ああ、私がここに来た時の話ね。


 自家用車が帰りに寄り道とか。しかも随分スケールのでかい寄り道だ。世界の間とか言ってなかった? 遠すぎじゃない?

 いやいや、あいつ車じゃない。


 でも、本当に自動運転の車ならそんな事しないだろうに。


 あ、でもAIが搭載されてたら、主人を送って行った帰りにドライブスルーで簡単な買い物とかしてくれる時代も来るかも? あと銀行や郵便局で用事を済ませてくれたり。

 まあ、異世界人を連れ去るAIはいないだろうけど……ってあいつAIでもない!


「何笑ってるの?」


 そんな事を考えてたらジャズミーナさんに不審な目を向けられてしまった。いかんいかん。


「ちょっとだけおかしな想像をしていただけです」

「何を?」


 何を、と言われても異世界人にAI云々の話は通じないから話せる事だけ話すか。


「帰り道に異世界人を召喚ではなく、買い物でもすればいいのになー、と。そうすれば平和だったのになー、と」

「出入りの商人さんが来るからそんな事をする必要はないけど」

「あ、そうですね」


 あの人達貴族だったね。


 それにしても、今、鳴き声を始めて聞いたのはこの時間に窓を開けたのが初めてだからなんだろうな。

 別にあいつの声なんか聞きたくないけど。


「セーラス様の事が気になるの?」

「いえ、全然。そんな仕事してたんだ。ふーん、程度ですね」

「あなた、自分を呼んだユニコーンについての話を『ふーん』って。そんなに興味ないの? 不思議ね」


 ジャズミーナさんが呆れている。だってしょうがないじゃん。諸悪の根源だし。


「さ、モエ、急ぎなさい。そろそろ奥様が旦那様を迎える支度をしに戻ってきますよ」


 確かにそうだ。馬が旦那様を迎えに行ったのはほぼ先ぶれに近い。昼間は基本的に敷地内の魔法研究のための離れに篭っている奥様がウキウキしながら戻ってくる時間だ。

 『アレクサンデル様大好き人間』だもんね。


 やっぱりあの二人の邪魔をするなんてとんでもない事だ。


 ポップコーンもいい加減に諦めればいいのに。

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