第22話 奥様付き

 と、いうわけで、次の日から私は奥様付きのお掃除メイドになった。


 これはやっかまれるかな、って心配になったけど、メイド服が変わらなかったので、ただの奥様に目をつけられた愚かなお掃除メイドだと認識されてる。結構不本意だけど、悪意向けられるよりいいよね。


 ま、私自身もそこまで変わった気はしない。お掃除する場所が変わっただけっていう感じ。朝の馬への餌やりもお子様達の遊び相手もそのままだ。


 給料も変わらない。専属さんはものすごく高給取りだって聞いたけど、私はそんな事ない。大体、高給もらっても困るだけだ。そこまで使い道がないんだから。


 奥様に疎まれてる私は外出する事も許されていない。買い物をする場合は、ここに来てる使用人さん用の外商さん? にお願いする。それで普段着とか日用品とか全部揃ったからこれからしばらく買う事もないし。

 この世界の外を全く知らないから興味はあるけど、永住するわけじゃないし、馴染むのも、ね。そういう意味では外出出来ないのはありがたいとも思う。


 もし、今回の事で変わった事があるとすれば、お客様が来た時に小部屋に連れて行かれて、そこに隠される事だ。


 ここの人達はよっぽど私をお客様の前に出したくないらしい。

 ま、お客様の前に出れるほどきちんとしてないし。新人だししょうがないよね。


 にしても、奥様はよっぽど私を監視したいらしい。そんなに不安かな。信用されてないって事だよね。


 それか、奥様の言った事はやっぱり嘘で、カロルス様が私の悪口を奥様に吹き込んだのかな。『モエは生意気だからお義姉様のところでいじめ倒して欲しい』とかなんとか?


 そうだとしたら嫌だな。カロルス様はちょっと幼稚に罵る癖があるけど、そこまで卑劣な事はしないと思ったのに。


 あ、でもカタリナ泣かせてたよね。そしてその次の日にみっともなく『嘘泣きだった』とかほざいてたよね。おまけに私の事『脳内お花畑』とか言ったよね。

 そんな人だったんだな。なんかがっかり。


 いや、勝手に想像されて、勝手にがっかりされるのはカロルス様もいい気分はしないよね。実際には本当に褒めてたかもしれないし。思い込みはよくないな。


 でもさー、あの喧嘩の後に『モエはいい子だね』って言うって、かなり無理があると思うんだよね。

 やっぱり悪口吹き込まれたのかな。そんな事ないといいけど。


 あれから二日くらい、厩に来ないから話せない。向こうも気まずいのかもしれないけど。本当にあの人が何を考えているのかさっぱり分からない。


 ただ、カタリナはそのままらしい。それはよかったと思う。ただ、私が奥様専用のお掃除メイドになったって言ったらすごい複雑そうな顔してたけど。

 私だけ待遇が変わるの。やっぱり複雑なのかな。友達としては『良かったね』って言ってくれたけど、やっぱり先輩としてはいろいろ思うところもあるのかもしれない。

 ……別に出世じゃないんだけどな。


「モエ! どうしたの?」

「なんでもないです! 手止まっちゃってすみません」


 悶々として手が止まってたのを奥様専属のジャズミーナさんに見られちゃった。考え事してたっていう言い訳は通じないよね。


 でも、変なことはされないし、みんなが意地悪じゃないってのがありがたいな。

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