第18話 ケンカ?
今日はとっても忙しい。
旦那様達は王都に家族揃って出掛けている。
最初に話を聞いた時は、家族旅行で首都観光とかいいなー、って思ったけど、どうやら社交でお呼ばれしてるらしい。あの人達貴族だもんね。
あとこの前のスタンピード未遂? の件で奥様に褒賞があるんだそうだ。この国の王様からお褒めの言葉をいただけるんだって。すごい数のモンスターだったもんね。やっぱり奥様すごすぎでは?
カロルス様はお留守番だそうだ。いずれ結婚したら旦那様の領地の一部をもらえるけど、今はちょっと宙ぶらりんな状態らしい。
おまけに今回呼ばれているのが、『ベアトリス・エインピオとその家族』なので、カロルス様は含まれない。これが『アレクサンデル・エインピオとその家族』ならオッケーなんだとか。
うん、貴族よくわかんない。ってこんな心の中を奥様に聞かれたら怒られそうだけど、今はいないし。
と、いうわけで私たちお掃除メイドは現在大掃除中なのだ。主人が不在の間、せっかくだからいつもは手の回らない場所も綺麗にしてしまおうという事らしい。まあ、普段からどこもかしこもピッカピカだけど、プロとしては納得のいかない事もあるんだと思う。
ま、旦那様達も
今日はお客様も来ないので、私が行っちゃいけない場所もない。というわけで玄関先の掃き掃除を命じられた。
ここ、めっちゃ重要なポジションじゃん! 帰ってきた奥様達が最初に見る場所。まあ、先輩もいるから安心だけど、頑張らなきゃ。奥様に『あら、モエが掃除したから汚いわねえ』とか言われたくないし。いや、今まで奥様がそんな事言った事ないけど。
チリ一つ残ってない玄関先にするぞ、と意気込んで箒をかけてると、ちょっと遠くから話し声が聞こえてきた。
最初はひそひそ声だった。でも、だんだん声がヒートアップしている気がする。そして男女の声に聞こえる。
やだ。痴話喧嘩? 仕事しろよ。何サボってんだ。
とは言っても、私は新人だし。先輩に注意なんて出来ないし。
「モエ、ちょっとうるさいから注意してきて」
私と一緒に玄関の掃除をしている先輩が声をかけてきた。そりゃ気になるよね。私でいいのかな。新人のくせに偉そうに、とか言われたらどうしよう。そのまま報告すればいいのか。先輩に信じてもらえなくても、しっかり真実を聞けちゃう
それにしても、どっちもなんか聞き馴染みのある声に聞こえるけど。誰だろう。
見つかったら逃げられそうなので、抜き足差し足で向かう。そして誰なのかこっそり覗いた。
そして、つい声を出しそうになった。だってそこにいたのはカタリナとカロルス様なんだもん。そりゃあ聞き馴染みのある声だわ。友達と、いつも私に文句を言いまくる人だもん。
いや、カロルス様何やってんだ。兄夫妻不在の時にメイドと喧嘩してんじゃないよ!
「ひ、酷い、カロルス様……」
「え!?」
私の心の声とカロルス様のリアル音声が被った。何でって、カタリナが泣き始めたからだよ!
本当何やってんの!? 兄夫妻不在の時に自分に憧れてるメイドを泣かせてんじゃないよ!
怒りでプルプル震えてると、視線に気づいたのか、カロルス様がこっちを見た。そして気まずそうな顔になった。
「モエ……」
その声でカタリナも気づいたらしい。こっちを見てからさっと顔を背ける。
「ごめん。声が玄関先の方まで聞こえてたから何があったのかと思って」
うるさいから注意してこいと言われた事は黙っておく。こんな状態の友達にそんな事は言えない。
「あの、カタリナ。大丈夫?」
「大丈夫。ごめん。最初は普通に話そうとしてたんだけど。でも、うまくいかなくて……」
「モエ、いつからここにいた?」
カタリナを慰めてると、カロルス様が厳しい声を出す。ってどうして私が責められてるの!?
「カタリナが泣いたところからですっ!」
はっきり答えると何故かカロルス様は天を仰いだ。
「何も聞いていないじゃないか!」
「はい。聞いてません。というわけで盗み聞きではないですよね?」
そう開き直る。カロルス様は額を押さえてため息を吐いた。
「むしろ……」
「何ですか?」
ごにょごにょ言ってるので先を促す。
カロルス様は、少しだけ考えてから思い切ったように顔を上げる。そして口を開いた。
「モエ、カタリナは……」
「うわあああん。モエー!」
カロルス様が答える前にカタリナが私にすがってきた。
「カロルス様に何言われたの?」
「私が……私が悪いの。少しお願いしたい事があって……。でも、誤解されちゃって……」
「お願いって?」
「ごめんね。ごめんね、モエ……」
どうやら悲しすぎて先が言えないようだ。かわいそうに。
きっ、とカロルス様を睨む。カロルス様は困ったような顔をしている。
とりあえずこの友人をなんとかしないと。使用人用の休憩室に連れて行けばいいかな。
カロルス様にもう一度軽蔑の眼差しを向けてから、力なくすがってくるカタリナを連れて私は休憩室に向かった。
カロルス様はこっちを見て何故か悔しそうな表情をしていた。
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