第11話 可愛い天使達
か、かわいいっ!
「えっと、モエだっけ。よろしく」
「よろちくー!」
「よ、よろしくお願いひます、ドミニク坊っちゃま、エステッラお嬢様」
こちらを見つめてくるつぶらな瞳が可愛くてついデレデレしてしまう。おかげで噛んでしまった。
私が挨拶をすると、二人は同時に私に向かってニコッと笑いかけてくれた。
くおーっ! カワイイ! ジタバタしながら『カ・ワ・イ・イーっ!』と叫びたい気分だ。でもそんな事をしたらこの天使のような可愛い子供達がびっくりしちゃうのでやらない。きっとびっくりする顔も可愛いだろうけど。
この子達があの奥様の子だなんて信じられない!
そう。この子達は! 目の前にいる愛くるしい五歳の栗毛の天使と三歳のピンク髪の天使は、この家の跡取り様とお嬢様なのである!!!
って誰に主張してるんだ、私。この心の声聞けるのは奥様だけだよ。
とにかく、この子達は旦那様と奥様の息子と娘というわけで。……ねえ、奥様、こんな可愛い子供達が生まれているなら大丈夫なのではないでしょうか。
「モエ?」
ドミニク様がじーっと私の顔を覗き込んでくる。
きっと私は遠い目でもしていたに違いない。天使の目が心配そうな色を持っていてついズキュンとしてしまう。
いかんいかん。私は、今、仕事中だよ。
なぜか私はお二人の遊び相手という新しい仕事をもらった。
これが昨日のお客様の絡みと関係あるのかは分からない。でも奥様の決定だから、きっと多少は関係してると思う。
そういえばあのお客様、あの後、奥様とめっちゃ喧嘩したとか噂で流れてきたけど本当なのかな? ここは奥様の家だからきっと奥様が最後は勝ったんだろうけど。それが『こいつをつまみ出しなさい』的な感じになったのかな? お客様に啖呵切ったとかいう噂も聞こえたし。
奥様強そうだからな。
それにしても、こういう遊び相手って信頼出来る人に任すものじゃないの? 私でいいの? 私、間女疑惑されてるんだよね? いいの?
「はい、何でしょうか」
でも仕事なので、きちんと返事をする。
「なにかなやみごとでもあるの? ぼくはこのいえの『ちゃくなん』だから大体のことはできるよ」
……それはお金的な意味だろうか。それとも権力的な意味だろうか。いや、どっちもアウトだと思うんだけど!
誰だよ! この天使にそんな教育した奴は! 出てこーい!
って言っても出てくるわけがない。私に出来る事はこの子をなだめる事だけだ。
「少し考え事をしていただけですよ」
「かんがえごと? なぁに?」
こてんと首をかしげるお坊っちゃま。そしてめっちゃ萌える私。いや、名前が萌絵だからってこんなに萌えさせる必要はないと思うの。
「なんでもいっていいよ」
「いいよ!」
何なのこの子! 優しすぎる。
ついでに意味分かってるのか分かってないのかどうなのかというエステッラ様まで同調するのが余計にたまらん!
もうかわいすぎるんですけど、この子達。しかもなんて心の優しい子たちなんでしょう。そのまま育ってね。そして幸せになってね!
「私は大丈夫ですから安心してくださいね」
とりあえずなだめないと。気持ちはありがたいけど、奥様が怖いからね。お坊っちゃまに悩み相談なんてしていいはずがない。
その奥様が悩みの種なんですけどね!
そう怒鳴りたいけど、ここにはお二人の専属さんもいるし、お坊っちゃまにも心配かけちゃうし。ああ、堂々巡りだ。
とりあえずにっこりと笑いかける。
「そうなの?」
「そうですよ」
もう一度微笑む。これにて一件落着……。
「じゃあだれがだいじょうぶじゃないの?」
……にはならなかった。
え? 何? この子すごい! これなら間違いなく素晴らしい領主様になるだろう。
すごい五歳児だ。私が五歳の時なんて何も考えずに友達と積み木とかで遊んでたのに。
真剣な目でじーっと見つめられる。これはごまかせないやつだ。
でもごまかさなきゃいけないんだよねー。だって奥様怖いもん。
「みんな大丈夫ですよ」
「ほんとう?」
「本当です」
いやー! じーっと見ないでー! ついぺろっと喋ってしまいそうになるー!
助けてー、と思ったけど、専属さんの方を見るのも不自然だよね。誰も助けてくれない。
「おにーちゃまぁ、あしょぼーよー!」
エステッラ様がドミニク様の腕を揺らしながら甘える。可愛い! すっごく可愛い!
「じゃあおにいちゃまがえほんをよんであげよう」
「わーい! もえもきこー!」
「はい、お嬢様」
お嬢様の助け舟に同調する。いや、乗っていいのか? これじゃあ私が遊んでもらうような……。
と、思って専属さんを見てみたけど、頷いたからオッケーらしい。よかった。
というわけで、お嬢様と一緒にお坊っちゃまの本の読み聞かせを聞く事になった。会話は出来るけど、文字の読み書きはチートないみたいなので勉強にもなるみたいだ。お嬢様は三歳だから私にもわかりやすい簡単な絵本だろうし。
じゃあ一石二鳥だよね。お二人には言わないけど。
それにしてもやっぱりどっちがお世話されてるのか分からない。そう思うと、つい笑いが出てしまう。
「じゃあモエはこっちにすわってね」
お坊っちゃまが指示してくる。私は『はい』と言ってその場所に座って彼が開いた絵本の一ページ目に集中したのだった。
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