第9話 メイドのお仕事

 メイドとしてのお仕事は私の想像しているものとそう違ってはいなかった。まあ、いわゆる家事全般。私は掃除を担当してる。


 でも、広いお屋敷だから掃除するだけでも大変。だからメイドさんが何人もいるんだって分かった。役割分担出来るから。


 奥様達のお世話やお給仕は専属のメイドさんが、お掃除もベテランのメイドさんがやるので、私には無縁の仕事だ。まあ、信頼が必要だもんね。新人で怪しまれてる私には無理だ。


 置物にハタキをかけている私の側を奥様専属のメイドさんが通り過ぎた。きっと奥様に命令されて何かを取りに来たんだと思う。奥様はいつも昼間は離れにこもって魔法の実験に集中してるらしいから。

 その自信に満ちた空気に圧倒されそうだ。近くを歩いただけなのに。


 制服も私達のとは違う。私達のメイド服も良い服だけど。彼女達の着ている服は生地からして間違いなく上等。


「はぁー。すごいわねえ」


 彼女の姿が見えなくなると、小声でおしゃべりが始まる。


「やっぱり専属メイドってオーラが違うよね」


 私も近くにいたカタリナに話しかける。


「そうよね。あの堂々とした佇まいは憧れるわね」

「ねー」

「あら、あんたはセーラス様の専属でしょう?」

「セーラス様?」


 馬鹿にするような口調で別のメイドが口を挟んできた。あんたには言ってない。

 てゆーかセーラス様って誰?


 きょとんとしている私を見てみんながおかしそうに笑う。


「あなたそんな事も知らないの?」


 明らかにバカにした口調だ。なんかむかつく。


「ごめんなさい。ここに来てまだ六日なので、このお屋敷の事には詳しくなくて」


 低姿勢で謝っておく。でないと、また『あんた調子乗ってる?』とか言われそうだし、新人なのは真実だし。


「その、セーラス様とはどの方の事でしょうか?」

「旦那様が使役しているユニコーン様の事よ」


 そう聞いた途端に、あのムカつく得意顔が頭に浮かぶ。

 あー、はいはい。あの馬の事ですね。


「私はただの餌係ですよ」


 でも、とりあえずおとなしくそう言っておく。


 そうよー! 私はユニコーン様の専属よー! ひれ伏せ、皆の衆! なんて言ったらまた反感買うからね。って、そんな酷い態度をとった事はないし、これからも取る気もないけど。

 つーか、あいつの専属とか嫌だ。


「ああ、セーラス様の御給仕は今までは持ち回りでやっていたのよ」

「ええ!? そーなの!?」


 カタリナの説明につい大きな声を出してしまった。周りの冷たい目線がこっちに向いた。


 やば! これはやばい!

 慌てて『すみません』と謝る。


 それにしてもそんな事は知らなかった。

 そりゃ専属って言われるし、反感も買われるかも。でも、馬にお給仕って言葉は似合わないと思うんだけど。ただの馬じゃなくてユニコーンだから? でも似合わない。


 それに、私がユニコーンの担当になったのは、奥様の命令でだ。

 乙女に女主人になってもらって待遇をゴージャスにして欲しいユニコーンに、その乙女の手から野菜ばかりの食事を与えてダメージを与えるため。

 だから私はただの嫌がらせ担当なんだけど。


 でもそんな事はここにいる人達は知らないんだろうな。知ってるのは私と奥様とセーラス……いや、もう馬でいいや。


「でも、ブラッシングとかは他の人がするそうですから」

「まあ、そうだねえ」

「ああ、そうね。餌やりって力仕事だもんね」

「そうねえ、あなたみたいな人にぴったりね」


 そんな言葉と一緒にまたくすくす笑いが始まった。

 ああ、もう! 嫌なカンジ!

 あのポップコーンめ。全部あいつのせいだ!

 とりあえず全部馬のせいということで気持ちを落ち着かせてみる。


「何を無駄話してるんですか? 掃除の続きをしなさい!」


 メイド長が叱りに来た。私たちは同時に『はーい』と返事をして掃除の続きにかかった。

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