Stage.6 夏が終わって、秋が来る
Track.21 海と温泉ははずせない
Voice.41 負けたくないな
「夏だ! 海だ! 合宿だー!」
メガネと文豪が海を見ながら叫ぶ。
――8月中旬。
オレ達ゲーム制作部は、夏合宿のために海に来ていた。
ちなみに、ゲーム制作の手伝いで明石と木暮も一緒に来ている。
合宿場所は、秋葉先生の車に乗って1時間くらいのホテルだ。
「よーし! さっそく部屋に荷物置いたら海で泳ぐぞー!」
「やっぱり遊ぶほうが目的じゃん」
音海に言われて、メガネは軽く返す。
「遊ぶのもインスピレーションを得るために大切なことだし」
ため息をついた音海に、篠原が話しかけた。
「まあまあ歌織ちゃん。せっかく海に来たんだし、私達も水着に着替えようよ」
「……朝陽がそう言うならいいけどさ」
そして、オレ達は部屋に自分の荷物を置いて、それぞれ水着に着替える。
先に更衣室を出て男子3人で待っていると、篠原がオレ達のほうに歩いてきた。
「えっと……どうかな?」
篠原の水着は、パステルピンク色のフリルスカートの水着だった。
黒色の髪は夏祭りの時と同じようにポニーテールにしている。
オレは、ゆっくりと口を開いた。
「よく似合ってるしその……かわ――」
「篠原さんめちゃくちゃかわいい!」
「そうだな。すごく似合ってる」
感想を言おうとしたとたんメガネと文豪にさえぎられて、思わず2人をにらむ。
「お前らな……」
「え? オタク何か言おうとしてた? ごめん」
「オレもごめん。ぜんぜん気づかなかった」
「……もういいよ」
すると、他の女子達も更衣室から出てきた。
「待たせてごめん」
「いやぜんぜん待ってないよ……って」
メガネがそう言って、音海の姿を見たオレ達は目をみはる。
音海は黒色のビキニの水着だった。
「音海さんさすが! 大人っぽい!」
「まさかこんなに似合うとは思わなかった」
メガネと文豪が声をあげる。
「私の水着はどうかな?」
そう言って、笹山は篠原の隣に立った。
笹山の水着は、青色のワンピースタイプの水着だ。
「笹山さんもよく似合ってるよ! ちょっと色が透けてるところがいい!」
「オレもそう思う」
「よーし! じゃあみんなで海で遊ぶぞー!」
「おー!」
メガネのかけ声に合わせて、みんなで声をあげる。
そして、オレ達はみんなで海で遊ぶことにした。
黒色の長い髪をなびかせながら、音海がクロールで海を泳ぐ。
得意げに泳ぐその姿は、すごく綺麗だ。
「歌織ちゃんすごい! 人魚姫みたい!」
砂浜でそれをみんなで見ていた篠原が声をあげる。
海を上がった音海が言った。
「運動は得意」
メガネが立ち上がって言った。
「よーし、オレ達も泳ぐぞー! めざせ無人島!」
「あんまり遠くまで行くと先生に怒られるからやめとけ」
「わかってるって」
それから、みんなでビーチバレーボールをしたり砂の城を作ったりする。
そして、オレ達男子3人が海の家で食べものを買って戻った時。
「ちょっと! やめてください!」
篠原の声が聞こえた。
声のしたほうを見ると、篠原達女子が歳上っぽい男子数人に話しかけられている。
「いいじゃん。オレ達とちょっと遊ぼうよ」
男子はそう言って、音海の手首を握る。
「離してよ。人が嫌がってるのにナンパするとかダサい」
音海が容赦なく言うと、男子は声を荒げた。
「ちょっと
瞬間、音海が男子に掴まれた手首を自分のほうに引き寄せて、男子の手首を捻りあげる。
「いってー!」
「これスマホで録画してるし、これ以上何かしたら警察呼ぶから」
音海は歳上らしい大学生の男子にも臆することなく、録画している自分のスマートフォンを見せつけた。
音海に
「す、すみませんでした! 何もしないので許してください!」
どうやらオレ達の出る幕はないらしい。
すると、同い年くらいの男子が騒ぎを聞きつけてやってきた。
「何があった……って、音海さん!?」
聞き覚えのある声が聞こえて、オレ達は顔を向ける。
そこには、高橋が立っていた。
「いやー、まさか夏休みにこんなところで偶然会うとはね」
海の家に移動して、みんなでジュースを飲みながらテーブルを囲む。
オレ達のジュースは高橋がおごってくれた。
「なんでここに高橋が居るんだ?」
オレが聞くと、高橋は口を開いた。
「海の家で店員のバイトと軽音楽部のバンドの夏合宿してるから。この近くにいい音楽スタジオあってさ」
「なるほどな」
「それにしてもさっきは驚いたよ。騒がしいから見に行ったら音海さんがナンパ撃退してたんだもん」
「小学生の時から護身術習ってるからあれくらい余裕」
「そのおかげで私達助かったよ。ありがとう。歌織ちゃん」
「どういたしまして。食い下がってきたら投げてやろうかと思ってたけど、その前に降参されて肩透かしくらった気分」
不満そうな表情をする音海に、笹山が聞いた。
「ねえ、護身術って私にもできるかな?」
「ある程度の運動神経があればできると思う」
「私も習ってみようかな。もし夜マスコミとかに狙われたら役に立ちそう」
「狙われたらって……サラッと怖いこと言うなよ」
「冗談だって」
いきなりの例えにオレが戸惑うと、笹山は軽くそう言って笑う。
笹山が言うと冗談に聞こえないんだよな。
すると、高橋が何かを思いついたような顔をして言った。
「なあ、せっかくみんな集まったんだし、これからゲーム制作部とうちのバンドで合同合宿しようぜ」
高橋の提案で、オレ達ゲーム制作部と軽音楽部の高橋のバンドで合同合宿をすることになり、オレ達は私服に着替えて高橋のバンドの合宿場所に来た。
「オレ達の取ったホテルよりだいぶ広いな」
「だろ? まあ、合宿代にお金使いすぎて今バンドメンバーのみんなバイトしてるんだけど」
「それって合宿してる意味ないんじゃない?」
「うっ」
音海の言葉に、高橋が顔をひきつらせる。
「だいたい高橋はすぐ形から入ろうとするから――」
すごい切れ味の言葉が出そうになった音海を、篠原があわてて止めた。
「歌織ちゃんストップストップ! これ以上は高橋くんが泣いちゃう」
「本当のこと言っただけなんだけど」
篠原に言われて、音海は平然と返す。
そして、言われた当の本人はというと――。
「よーし! 合宿代の元をとるぞー!」
音海の言葉で逆にスイッチが入っていた。
「じゃあ私ブースでレコーディングの準備するから」
「よろしく!」
それを見たメガネと文豪も自分の持ちものを取り出す。
「オレ達もいいゲーム作るぞ!」
「ほら、オタクも液タブ出して!」
「わかったから落ち着け」
それを見て、明石は笑う。
「燃えてるねー。みんな」
木暮が口を開いた。
「なんか熱気がすごいから、私涼しい部屋で作業する」
「私もそっちの部屋行こうかな」
篠原と笹山は、2人で顔を見合わせる。
篠原が言った。
「じゃあ私達は空いてる部屋で読み合せする?」
「そうだね」
笹山はうなずいて、2人で空いている部屋に行く
そして、夜になるまでみんなで合宿をした。
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