Voice.40 はぐれないようにつかまえておくから
「でも、花火だけじゃなくて――」
そう言うと、笹山はオレを見つめて黙り込む。
その瞬間、空に花火が打ち上がった。
丸い赤色の花火が開いて、大きな音が鳴り響く。
すると、笹山はオレの耳もとで囁いた。
「月が綺麗だなって思って」
笹山の透き通った声が、オレの耳に響く。
赤色の花火の光が、オレと笹山を照らした。
そのせいか、笹山の顔が赤くみえる。
花火が消えた後、オレは口を開いた。
「……月は見えないけど」
「え?」
笹山が拍子抜けしたような顔で聞き返す。
オレは花火が打ち上がっている夜空を見て、言った。
「今見えるのは花火だろ?」
オレの言葉に、笹山はいぶかしげに聞いてくる。
「瀬尾くん、本当にこの前の国語のテストの点数80点だったの?」
「部活の時に笹山にもちゃんと点数見せただろ。期末テストの5教科の点数ぴったり80点だったって」
「夏目漱石って知ってる?」
「有名な小説家だよな」
オレが平然と答えると、笹山はため息をついて頬を膨らませた。
「もう少し小説読んだほうがいいと思うよ」
どういう意味なんだ?
オレは笹山の言葉に首をかしげる。
すると、篠原の声が聞こえた。
「瀬尾くーん!」
オレ達は声のしたほうに振り向く。
すると、河川敷の上のほうにみんなが居て、篠原が手を振っていた。
「みんな」
オレが声をあげると、みんながオレ達のほうに降りてきて歩み寄る。
篠原は怒ったように言った。
「もう。2人ともはぐれちゃった時はどうなるかと思ったよ」
「ごめん。まさかオレもはぐれるとは思ってなくて」
「私もごめんね。せっかくみんなで夏祭りの会場まわってたのに」
「まあ2人ともなんともなくてよかったけど」
そう言うと、篠原はオレの腕を掴んだ。
「し、篠原!?」
「心配させた罰として、はぐれないようにつかまえておくから」
怒った口調で目を見つめながら言われて、オレはそのままでいるしかなくなる。
それからオレ達は、みんなで河川敷で花火を見た。
花火が終わった後みんなで神社を出て、電車で最寄り駅まで帰るために駅に向かう。
「朝陽」
すると、女子が篠原に声をかけてきた。
「
篠原は声をかけてきた女子を見て、驚いた顔をする。
女子は笑顔で篠原に駆け寄ってきた。
「ひさしぶりだね。朝陽も夏祭り来てたの?」
女友達と一緒の女子は、薄茶色の髪をツインテールにして、黄色の花柄の浴衣を着ている。
篠原はうなずいた。
「うん。友達と一緒に」
「じゃあ私と同じだ」
「私と茉昼と夕乃と中学一緒だった、親友の星羅」
篠原に紹介されると、女子は遠慮がちに頭をさげる。
「か、
なんとなくオレと笠岡は雰囲気が似ている気がする。
「あ、えーっと……オレは瀬尾拓夜です」
「オレは目崎兼斗」
「オレは文谷剛だ」
「瀬尾くんに目崎くんに文谷くん……ですね」
すると、笠岡は思い出したように言った。
「す、すみません。私そろそろ家に帰らないといけないので、これで失礼します」
そう言って、笠岡は手を振って帰っていった。
そして、オレ達もみんなで電車に乗る。
オレが真ん中で、両隣には篠原と笹山、向かい側には音海と明石と木暮と、メガネと文豪で座席に座った。
「それにしても綺麗だったね。花火」
篠原が声をあげる。
笹山はうなずいた。
「初めてあんなに近くで見たけど、すごく綺麗だった」
すると、木暮は何かを思いついたような表情をする。
「あ、そうだ。私、今度の美術のコンクールに出す絵花火にしようかな」
明石が口を開く。
「美術のコンクール、今年もあるんだ」
「うん。絵出すかどうかは自由だけど」
「ねえねえ、瀬尾くんは何か絵出すの?」
明石に身を乗り出しながら聞かれて、オレは思わず言葉に詰まる。
「オ、オレは今年はいいかな」
オレの言葉を聞いて、メガネが言った。
「あーそっか。オタク去年金賞だったもんな」
「金賞!?」
明石が驚いた顔をする。
木暮は去年のことを思い出したのか、悔しそうな表情をした。
「そうだよ。瀬尾が金賞で、私が銀賞」
いじけたように言う木暮を、明石がまあまあ、となだめる。
文豪が言った。
「なんだよオタク、今年も絵出せばいいじゃないか」
「……別に、出してもいいんだけどさ」
だけど、オレはもう――。
そして、1年前に金賞をとった時のことを思い出す。
――その時。
篠原がオレの肩にもたれかかってきた。
見ると、篠原は寝息をたてて眠っている。
それを見た女子達は、微笑ましそうにオレ達を見つめた。
「ほうほう」
明石がからかうような目で見てくる。
「なんだよ」
すると、笹山もオレの肩にもたれかかってきた。
見ると、笹山も篠原と同じように寝息をたてて眠っている。
明石はそれを見て、楽しそうに口を開いた。
「これは……三角関係だ!」
「うん。三角関係だね」
「誰がどう見ても三角関係」
明石に続いて、木暮と音海が口々に言う。
「いや、これは絶対違うだろ!」
否定するけれど、みんなはなかなか聞いてくれない。
篠原と笹山は、最寄り駅に着くまで起きなかった。
今回で第5章が終わって、次回から第6章が始まります。
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