Voice.34 夏合宿しようぜ!
アリーナの天井に星空が浮かびあがって、会場中のみんなかざわめく。
オレは思わず目をみはった。
篠原も驚いた表情をしている。
すると、星空をイメージした歌詞が印象的な曲のイントロが流れた。
演奏に合わせて、天井の星が流れ出す。
その光景は、とても幻想的だった。
そして、歌い初めと同時に柚木真奈さんにスポットライトが当てられた。
白いワンピースを着た真奈さんが花道の中央ステージに居る。
みんなはペンライトを真奈さんのイメージカラーの青色にして、会場を青色に染めた。
ペンライトの青い海を見た真奈さんは、嬉しそうな顔をする。
曲を歌い終えて、真奈さんが言った。
「今日は7月7日の七夕。
――その後。
アンコールでアリーナを回るトロッコ演出とダブルアンコールで、柚木真奈さんのライブは終わった。
「楽しかったー! まさか七夕の曲歌ってくれるとは思わなかったよー」
会場の外に向かって歩きながら篠原が言う。
「オレも。あのプロジェクションマッピングよかったよな」
「そうそう。MCで今日だけの特別な演出だって真奈ちゃんが言った時は嬉しかった」
そして、オレ達はライブ会場を出たところで篠原のお兄さんを待つことにした。
振り返ると、さいたまスーパーアリーナの屋根が柚木真奈さんのイメージカラーの青色にライトアップされている。
空を見上げると、星でできた天の川が見えた。
「あ、天の川だ」
「本当だ! すっごく綺麗!」
篠原はすぐにバッグからスマートフォンを出して、青く染まったさいたまスーパーアリーナと星空の写真を撮る。
オレも同じように写真を撮った。
――7月7日の七夕。
その日はオレ達にとって、かけがえのない日になった。
木暮のおかげで、キャラクターデザインが本格的に決まり、ゲーム制作は順調に進んでいた。
ゲーム制作の部活の時間に、メガネがオレ達の前に立って言った。
「夏休み、ゲーム制作部で夏合宿しようぜ!」
「いいけど、合宿って具体的には何するんだ?」
「それはもう考えてある」
オレが聞くと、メガネは『夏合宿について』というプリントをみんなに配った。
「ようするに、部活のみんなと泊まり込みでゲーム制作を進めたり、バーベキューしたり海で泳いだりしたいってこと」
「……これってもしかしてゲーム制作よりバーベキューと海で遊ぶほうがメインだったりしない?」
音海に言われて、メガネは焦ったように苦笑いする。
「そ、そんなことないよ! ちゃんと合宿代は部費から出すし」
「声裏返ってるから完全に図星だな」
文豪が言った。
メガネが続ける。
「オレ達の部活の夏合宿の日程は演劇部の夏合宿の日程聞いてから考えるからさ。どう?」
「私はいいよ」
篠原が言うと、笹山もうなずいた。
「楽しそうだし、私も賛成」
「3人は?」
オレ達もうなずいていいよ、と賛成すると、メガネが声をあげた。
「よーし! 夏休みは合宿をするぞー!」
「おー!」
オレ達も声をあげる。
こうして、オレ達ゲーム制作部は夏休みに合宿をすることになった。
そしてふと、オレは音海と笹山と3人で話している篠原を見る。
でもそっか。
夏休みの演劇部の合宿中は篠原に会えないんだ。
なんだか少し寂しい。
すると、誰かが部室のドアを開けた。
「動画サイトに上がってたゲームのPV見たんだけど、オレ達にもゲーム作るの手伝わせてくれない!?」
そう言って、男子は明るい笑顔を見せる。
この雰囲気、めちゃくちゃ陽キャだ。
「オレ、軽音楽部のバンドでギター&ボーカルやってる1年2組の
「ああ、それは音海さんだよ」
メガネが言うと、音海が前に出て言った。
「私だけど」
「全部打ち込みで作った?」
「うん」
「ゲームのサイトで流れてる歌も音海さんが歌ってるの?」
「そう」
すると、高橋は嬉しそうな表情をする。
そして、言った。
「すごく歌上手くて驚いたよ! いい歌だったし」
「ありがとう」
「それで思ったんだけど、音海さんの歌を最大限生かすにはDTMじゃなくてバンドの生音源がいいと思うんだ」
音楽経験がある篠原と音海以外は音楽用語がわからなくて、顔を見合わせる。
オレは2人に聞いた。
「あの、2人が話してるDTMとか打ち込みって何?」
「あー、そっか。音楽やってないとわからないよな」
そして、高橋は説明する。
「DTMっていうのはデスクトップミュージックの略で、パソコンで作った音楽のこと。それで、打ち込みはパソコンで作曲をすることなんだ」
「へー。パソコンで音楽作れるのか」
高橋は音海を見て、言った。
「どうかな? ゲームの音楽にオレ達のバンド使ってくれない?」
その提案に、音海は驚いた表情をする。
そして、しばらく考える仕草をしてから、言った。
「ちょっと考えさせて」
音海の答えに、高橋は少し残念そうにしながらも、笑顔で言う。
「まあいきなり言われても決められないよな。すぐ答え出さなくていいよ」
「ありがとう」
「もしよかったら、今度部活の時間にみんなでオレ達の演奏見にきて」
「うん」
そして、高橋はドアを開けて、おじゃましましたー、と言って帰っていった。
高橋がゲーム制作部の部室を出てから、篠原は音海に聞いた。
「どうするの? 歌織ちゃん」
「なんかすごくノリ軽いから不安」
すると、笹山が言う。
「私同じクラスだけど、高橋くんっていつもあんな感じだよ。クラスのムードメーカーで、何か決める時いつも最初に発言してる」
「でも演奏は上手いみたいだよ」
メガネがそう言って、パソコンで動画投稿サイトの動画を流した。
それは、前に観たバンドのPVの動画だった。
篠原がパソコンを覗き込む。
「これ、この前茉昼が編集したって言ってたバンドの動画だよね?」
「うん。動画の説明文見たら高校生バンドって書いてあるし、顔も高橋と一緒だから」
みんなでパソコンを覗き込んだ。
たしかにもう1回バンドの曲を聴いてみると、演奏が上手い。
「オレは、みんなで1回練習見に行ってみたらどうかなって思うよ」
「でも……」
メガネの言葉に、音海は考え込んでいる。
すると、篠原が言った。
「ねえ歌織ちゃん、笹山さん。もし時間あったら、3人でこの後帰りに駅前に新しくできたカフェ寄っていかない?」
篠原の誘いに、音海と笹山は驚いたような表情をする。
「いいよ」
「私も。あのカフェ気になってたんだ」
音海と笹山がそう答えると、篠原は笑顔になった。
「ありがとう。じゃあ今日は3人で帰ろう」
篠原がそう言って、女子3人は一緒に帰っていった。
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