Voice.32 自分で描けるようにならなきゃ意味ないから
部活で作っているゲームのPVを動画サイトに投稿したけれど、時間がたってもなかなか見てくれる人は増えなかった。
「まあ最初は見てくれる人が少なくてもしょうがないよー」
――朝のホームルーム前の時間。
暗い雰囲気になっているオレ達を明石がなぐさめてくれる。
メガネが言った。
「それはわかってるけど、何日たってもなんの反応もないのはさすがにちょっと落ち込むよな」
「うーん。SNSのアカウント使って宣伝するのもありだけど、宣伝ってしなさすぎるのもしすぎるのもよくないしね」
「気長に待つしかないかー」
オレは持っていたスマートフォンで、動画投稿サイトに上げたゲームのPVを再生する。
「メガネが初めて作ったにしてはよくできてるんだけどな」
PVが終わって、次の動画に切り替わった。
それは、高校生のバンドが作った歌のミュージックビデオだった。
明石が曲が流れていることに気がついて、オレのスマートフォンを覗き込む。
そして、言った。
「あ、私が編集したMVだ」
「へー。……ってえ!?」
メガネが明石の言葉に驚いて立ち上がる。
そして、オレのスマートフォンの動画を観た。
「オレより編集上手いじゃん……」
すると、明石は首をかしげる。
「でも、私のはただの趣味だから、感覚でやってるだけだよ?」
「いや、マジで上手いって! っていうか、動画の再生回数多いし!」
たしかに、明石が編集したと言ったミュージックビデオは、バンドメンバーにちゃんと見せ場があって魅力的で、投稿した日から短期間で再生回数が5000回を越えていた。
「それなら、私が目崎くんに動画編集のやり方教えてあげようか?」
「いいの!?」
「いいよー。前に『私にできることがあれば手伝う』って言ったしね」
「ありがとう! 明石さん!」
そして、メガネは明石に動画編集のやり方を教わる。
それからもう1度作り直して動画サイトに上げたゲームのPVは、前より再生回数が上がって、多くの人に見てもらえた。
――そして、美術部の部活の時間。
「瀬尾。今週の日曜日時間ある?」
「大丈夫だけど」
オレが言うと、木暮は言った。
「じゃあ、今度の日曜日、みんなで私の家に来て」
「え?」
――日曜日。
オレ達ゲーム制作部の6人は、木暮に言われて木暮の家の前に来ていた。
篠原がインターフォンを押す。
すると、インターフォン越しに木暮の声がした。
「はい。どちらさまですか?」
「篠原です」
「朝陽。ちょっと待ってて」
ドアが開いて、中から私服を着た木暮が出てくる。
オレは木暮に言われて、みんなと一緒に木暮の家に来た。
「入っていいよ」
「おじゃまします」
みんなで木暮の家の中に入る。
木暮のお母さんが迎えてくれた。
「いらっしゃい。夕乃の母です。今日は来てくれてありがとう」
「今日はお世話になります。これみんなで選んだお菓子です」
そう言って、篠原が代表で木暮のお母さんにお菓子を手渡す。
「あら、ありがとう。あとで部屋に持っていくわね」
「みんな、私の部屋こっち」
そして、オレ達は木暮の部屋に入った。
木暮の部屋は本棚には少女漫画、床にはぬいぐるみが置かれていて、かわいい雰囲気だ。
「そこに座って」
木暮に言われて、オレ達は机を囲んで床に座る。
すると、木暮はクローゼットを開けた。
「じゃあこれから、女子の洋服についての勉強会を始めます」
「よ、よろしくお願いします」
オレがそう言うと、木暮は自分の服を例にして女子の服のデザインについての説明を始めた。
「――これで服の説明は全部なんだけど」
そして、オレを見て言った。
「まあ、まだわからないって顔してるよね」
「ご、ごめん」
「謝ることないよ。女子の服って種類たくさんあるからいきなり説明されてもわからなくて当然」
それから、続ける。
「せっかくだし、実際着てるところ見たほうが早そうかな」
木暮はそう言うと、オレ達男子を廊下に出した。
――そして、10分後。
「おまたせ。入っていいよ」
木暮に声をかけられて、オレ達は部屋の中に入る。
そこには、木暮の私服を着た女子のみんなが居た。
オレ達は思わず声をあげる。
「みんなすごく似合ってるよ!」
メガネが言うと、木暮は誇らしげな顔をして言った。
「当然でしょ。私が選んだ服なんだから」
すると、篠原が言った。
「夕乃、わざわざ服着なくてもよかったんじゃない?」
「服って着ると立体感出るからキャラデザのイメージしやすくなると思って」
「そうだけど……この服かわいすぎる気がする」
「かわいすぎるくらいの服着たヒロインのほうがいいでしょ」
篠原の服は、ピンクの桜柄でフリルのついた長袖のワンピースだ。
たしかに普段の篠原の服装とは少し服の系統が違う。
すると、木暮が言った。
「瀬尾。試しに今服着てる朝陽をスケッチしてみて」
「ああ」
オレは持ってきたスケッチブックに篠原を描く。
しばらくして、完成したスケッチを木暮に見せた。
「うん。いい感じ。この調子で私達もスケッチしてみて」
「わかった」
しばらくして帰る時間になり、オレ達は木暮の家を出る。
みんなが外に出てから、オレは玄関で木暮に聞いた。
「木暮」
「何?」
「なんでオレにいろいろ教えてくれたんだ?」
すると、木暮はオレを見る。
「最初は私が服のデザイン手伝ってもいいかなって思ったんだけど」
そして、続けた。
「瀬尾が自分で描けるようにならなきゃ意味ないから。だから教えたの」
その理由を聞いて、オレは嬉しくなる。
「そっか。ありがとう、木暮」
すると、木暮は言った。
「また絵で困ったことあったらいつでも聞いて」
「ああ。そうする」
オレは木暮と少しだけ打ち解けられた気がした。
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