Track.16 友達の協力

Voice.31 いろんな人に興味持ってもらえると思うよ

 ――7月の夏休み前。

 作っているゲームの2人目のヒロインの声優が笹山に決まり、1学期の期末テストも終わって、オレ達は次にやることを考えていた。

 文豪が言った。


「初稿ができた」

「おおー!」


 そして、文豪が人数分のコピーをして渡してくれた原稿をみんなで読む。


「オレのアイディアが脚本になってる……!」


 数行しかない設定から数枚の原稿に話がふくらんでいる。

 なんか不思議だ。


「まあまだ初稿だし、これから直すところいっぱいあるけどな」


 メガネが言った。


「次はゲームの情報が見れるサイトを作ろうと思うんだけど、それだけだと興味を持ってくれる人は少ないと思うんだよね」

「まあそうだな」

「だから、ゲーム制作部のSNSアカウントを作ろうと思うんだ」

「個人のSNSもあったほうがいいと思うよ」


 そう言ったのは、スクールバッグを肩にかけた明石だった。


「茉昼」

「部活のSNSだけじゃなくて、個人のSNSがあれば、ゲーム作ってる人がどんな人かわかるでしょ?」


 篠原がうなずく。


「そうだね」

「だから、みんなもSNSのアカウント作って宣伝すれば、いろんな人に興味持ってもらえると思うよ」


 明石のアドバイスに、メガネが声をあげた。


「よし。そうと決まればさっそくSNSのアカウントを作るぞー!」

「あ、オレ投稿サイトに小説投稿し始めた時アカウント作ったからもうある」


 篠原が首をかしげる。


「そういえば、文谷くんのペンネームって何?」

「そうそう。こいつのペンネーム超かっこいいんだよ」

「へー。教えて」


 文豪は声を低くしてかっこうつけた。


「名もなき文豪」

「……え?」


 そして、篠原の反応をよそに、メガネは目を輝かせる。


「な!? かっこいいだろ!?」

「本当のペンネームは小説家デビューが決まったら考えるんだ」


 盛り上がる男子達をよそに、女子はついていけていない。


「う、うん。かっこいいね」


 篠原はそう言って苦笑いした。

 それからオレ達ゲーム制作部は、ゲームの情報を載せるアカウントと、それぞれ個人のSNSのアカウントを作った。

 そしてオレは、液タブの扱いに慣れるためとイラストを投稿するために、イラスト投稿サイトのアカウントも作った。

 家に帰ってパソコンでサイトを開いてから、投稿画面でこのあいだ液タブで初めて描いたイラストを選択する。

 タイトルと説明文とタグがつけ終わって、あとは投稿ボタンをクリックするだけになった。

 そこで、オレは息をつく。

 インターネットに自分のイラストを投稿するのは初めてだから、めちゃくちゃ緊張する。

 深呼吸をしてから、意を決して投稿ボタンを押した。

 画面が切り替わって、「投稿が完了しました」と表示される。

 初めてイラストの投稿ができて、オレは安心した。

 すると、すぐに誰かがリアクションをしたという通知が来た。

 開くと、篠原のペンネームのアカウントがイラストにハートを押してくれた通知と、オレのアカウントをフォローしてくれたという通知だった。

 初めての通知が篠原で、オレは思わず嬉しくなる。

 しばらくして、また通知が来た。

 開くと、「ユノ」というペンネームのアカウントがハートを押してくれた通知と、アカウントをフォローしてくれたという通知だった。

 ユノのアカウントを見に行ってみる。

 ユノが投稿しているイラストは、美術部で見ている木暮のイラストと同じだった。


「このアカウント、間違いなく木暮だな」


 それから、ゲーム制作部のみんなと明石のペンネームのアカウントが反応してくれた。

 ――そして、次の日。

 オレ達の初めてのゲームのサイトが完成した。

 メガネが得意げに言う。


「勉強そっちのけで一晩で作った」

「いや勉強はしろよ」


 オレがツッコミを入れると、メガネは冗談だってー、と笑った。

 マウスを操作して、サイトを開く。

 BGMのオンオフの選択画面の後、音海が作ってくれたバラードの歌が流れた。


「ほら、サイトを開くと音海さんの作った歌が流れるようにしたんだ」

「さすが凝ってるな」

「そこで、次はゲームのPVを作りたいんだけど、スタジオかりるから、篠原さんと笹山さん、空いてる日にアテレコお願いできる?」


 メガネが聞くと、篠原と笹山はうなずく。


「わかった。2人で予定確認してみる」


 こうして、篠原と笹山は初めてのアテレコをすることになった。

 部活に入っているオレ達も一緒にスタジオに入る。

 スタジオの中は、いろいろな機材が置かれていた。

 今回はゲームの音声収録だから、2人とも座ってアテレコをする。

 篠原が収録した後、笹山が収録する、という順番だ。

 スタジオ内に緊張感がただよう。

 篠原はよろしくお願いします、と挨拶をした後、椅子に座った。

 それから、台本を開いて準備をする。

 そして、秋葉先生のカウントの後、声を出した。

 キャラクターが長く話すゲーム本編ではなく、短いPVのアテレコだったため、篠原の音声収録は順調に進んだ。

 オレ達はその姿をアテレコブースの外から眺める。

 笹山は篠原を見て、驚いたような表情をしていた。


「笹山、どうかしたのか?」


 オレが声をかけると、笹山はオレのほうに向き直る。

 そして、言った。


「篠原さん、演劇部の時と雰囲気違うなって思って」

「そうか?」

「うん。演劇部で演技する時は、自分が残ったような演技するのに、今はちゃんとキャラになってる」


 このあいだ篠原に頼まれてオレと2人で劇のオーディションの練習をしていた時、篠原が自分の演技について言っていたことと同じことを言っている。

 そして、その篠原の演技の変化に気づいた。

 笹山はよく見てるな。

 しばらくして、篠原のアテレコが終わり、篠原がアテレコブースから出てくる。


「じゃあ、私行ってくるね」


 笹山はめずらしく緊張したような表情をしてそう言うと、アテレコブースに入っていった。

 笹山は椅子に座ってから、秋葉先生のカウントダウンでアテレコを始める。

 声だけの演技になっても、笹山の演技は上手かった。

 初めてのマイク前での演技なのに、リテイクが必要ないくらい仕上げてきている。

 笹山の音声収録も順調に進んだけれど、笹山自身は声の細かい違いを出して演技ができてない、と納得していなかった。

 ――3日後。

 メガネが編集をしたゲームのPVが完成して、みんなで見守りながらインターネットの動画サイトに投稿した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る