Stage.4 初めての劇とさしのべた手
Track.13 普通の女の子
Voice.25 どうして私にはできないんだろう
――学校の木が緑色に染まってきた、5月中旬。
オレ達ゲーム制作部は6月にある体育祭の練習と平行して、ゲーム制作を進めていた。
「体育祭の練習疲れたー!」
ゲーム制作部の部室に入ったとたん、メガネと文豪が自分の椅子に座って言う。
篠原と音海以外はインドア派だから、いつもこうなっている。
すると、秋葉先生が部室に入ってきた。
「おつかれさまです」
秋葉先生は大人だからか、あまり疲れていないみたいだ。
「体育祭まであと1か月ですから、みんな頑張りましょう」
こうしてゲーム制作部で作りたいゲームの方向性が決まり、秋葉先生の許可も出て、オレ達は本格的にゲーム作りに励んでいた……のだけれど。
「ヒロインの服のデザインがうまくできない……」
実は、イラスト担当のオレのヒロインのキャラクターデザインがまったく進んでいなかった。
悩んでいると、メガネが言った。
「オタク、姉ちゃん居るんだから参考に服貸してもらえば?」
「姉ちゃんの服はゲームでヒロイン達が着るような服じゃないんだよな」
すると、文豪が言う。
「たしかに、イメージに合わないと意味がないな」
メガネが聞いた。
「じゃあ、篠原さんと音海さんはどう?」
「私は着る服の色がピンクとか白とかにかたよってるからなー」
篠原が言う。
音海が言った。
「私はシンプルな服が好きだから、ゲームに使いたい服の系統とは違う」
「たしかに、歌織ちゃんの服ってかっこいい感じだよね」
そして、どうしたらいいか悩みながら、美術部がある日にスケッチブックを眺めていた時。
「どうしたの?」
隣で絵を描いていた木暮に声をかけられた。
思わず肩をびくつかせる。
「その、別の部活で作ってるゲームの服のデザインがわからないところがあって……」
オレがそう言うと、木暮はスケッチブックを見て言った。
「ちょっとそれ見てもいい?」
「は、はい」
「ありがとう」
オレはスケッチブックを渡す。
木暮はそれを開いて、オレが描いた絵を見た。
人に目の前で絵を見られるのはひさしぶりだから、この空気めちゃくちゃ緊張する。
そして、木暮はゆっくりと口を開いた。
「たしかに、女の子キャラの服うまく描けてないところがあるね」
「やっぱり木暮もそう思うか?」
木暮はうなずく。
「着せられてる感じがするっていうか、不自然っていうか」
「どうすればいいんだろう」
オレはため息をついて考え込む。
「私は実際に女子高校生向けの服屋さん行って資料になりそうな服買ってるけど」
「それはオレには無理」
木暮に平然と言われて、オレは即答する。
「だよね」
「このままだとゲーム制作が進まないんだよな」
木暮は考え込んでから、言った。
「わかった。私も何かいい方法がないか考えてみるよ」
「ありがとう」
――その日の夜。
オレは篠原のオーディションの練習につき合っていた。
篠原の演技は、1週間前と比べて上手くなっている。
でも、篠原は納得がいっていないようだった。
「うーん……」
篠原は台本を眺めながら、考え込んでいる。
「オレは前より上手くなってると思うけど」
「私も前よりはいいと思うよ? でもアリアにはなりきれてないっていうか……私がまだ残ってるっていうか……」
そして、篠原は今度やる劇の原作の小説と漫画をのページをめくった。
「原作の小説も読んでコミカライズも読んで頭の中でキャラをきっちり作ってあるのにいざ動こうとするとうまくいかない、みたいな感じ」
「もしかして、想像と実際の感覚が違う、みたいな感じか?」
「よくわかったね」
「絵描いてるとたまにあるし、前にメガネと文豪が煮詰まった時同じこと言ってたから。実際に今オレもゲームのキャラクターの服のデザインがうまく描けなくて悩んでるし」
「そっか」
そう言うと、篠原はため息をついてベッドにうつぶせで寝転ぶと、クッションをかかえてうなだれる。
「笹山さんの演技はちゃんと演じる役になってて自然体なのに、どうして私にはできないんだろう」
篠原は演技をすると普段の篠原の雰囲気が残った柔らかい演技で、笹山は演技をすると普段とは雰囲気が変わる。
演技経験の差じゃなくて、それぞれの本質の差だと思う。
すると、篠原が部屋の時計を見て言った。
「あ、たっくん。もう夜遅いから、そろそろ帰ったほうがいいんじゃない?」
「そうだな」
そして、オレと篠原は部屋を出て、篠原の家のリビングを通る。
テレビの画面を見ると、竹野美桜さんがテレビの生放送に出ていた。
テレビの司会者の女性が竹野さんに聞く。
「今日は、お子さんの写真も持ってきてもらったそうですね」
「はい。今まであんまり子どものことは言わないようにしてたんですけど、時間が経ったのでやっぱりそういう話もしたいなと思って」
「では、お子さんの写真を見てみましょう」
司会者がそう言うと、テレビの画面に写真が映し出された。
「え?」
それを見て、オレと篠原は思わず声を漏らす。
仲よさそうな父、母、娘の3人で並んだ家族写真の真ん中に映っていたのは、小さい頃の笹山だった。
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