Voice.20 すごく綺麗だね

 メガネの好きなゲームセンター、文豪の好きな本屋とまわったオレ達は、音海の好きな場所に行くことにした。


「音海さんの好きな場所ってどこなの?」


 道を歩きながら、メガネが聞く。

 音海は言った。


「歌を思いっきり歌える場所」


 っていったらやっぱり――。


「学生5名様、フリータイムですね」


 フロントの受付の店員が言う。

 音海の好きな場所は、カラオケだった。

 しかも、オレと篠原が初めて行ったカラオケだ。

 オレ達はみんなでドリンクバーで飲みものを入れてから、部屋に向かう。

 そして、部屋のドアを開けて中に入った。

メガネが声をあげる。


「おー! 部屋広いなー!」


 店員が取ってくれた部屋は、パーティールームだった。


「あ!」


 それからすぐにカラオケの機械を見て、目を輝かせる。


「カラオケの機械最新機種だ!」

「まあ、5人居るし大きい部屋取ってくれたんだろ」


 文豪が言って、オレ達はソファーに荷物を置いて座る。

 篠原は音海に選曲するタブレットを渡した。


「歌織ちゃん最初に歌っていいよ」

「ありがとう」


 音海はそれを受け取って、曲を選んで送信する。

 すると、テレビの画面に音海の送信した曲が表示された。

 それは、ネットでミリオン再生を記録して紅白にも出た歌手のバラード曲だった。

 主人公が謎解きをするアニメのエンディングだ。

 メガネが口を開く。


「あ、オレこの曲がエンディングのアニメ観てる」

「オレも」


 文豪がうなずいた。

 すると、篠原が小声で言う。


「2人とも、曲始まるから静かにして」

「あ、ごめん」


 イントロが流れて、音海が歌い始めた。

 音海の声は低いけれど、歌になるとこの曲に合った儚げな声も出せるらしい。

 隣に居る篠原は音海の歌を聴いて嬉しそうにしていた。

 曲が終わり、篠原が音海に言う。


「すっごくよかったよ! 歌詞の世界観が伝わってきて、想像が広がる感じ」

「そう。ありがとう」


 音海はアイスのブラックコーヒーを飲みながら篠原の言葉を聞く。

 すると、次の曲になった。

 アニメ映像が流れている。


「誰だこの曲入れたの」


 オレが聞くと、メガネがマイクのスイッチを入れて立ち上がった。


「オレでーす! やっぱり最初に歌うのは人気のアニソンでしょ」


 そして、メガネはカラオケで一番歌われているロボットアニメのオープニング曲を歌った。

 文豪は、流行りのライトノベル原作アニメのオープニング曲を歌う。

 そして、篠原が歌う番が来た。


「何にしようかなー」


 そう言いながら、篠原はタブレットを操作する。

 みんなが居る前だと篠原は何を歌うんだろう。


「決めた!」


 そして、篠原は自分の歌う曲を送信した。

 テレビの画面に曲名が表示される。

 それは、女子高校生がロックバンドをやるアニメの劇中バンドの曲だった。


「え!?」


 篠原の意外な選曲に、オレ達は声をあげる。

 篠原はオレ達の反応を見て、嬉しそうに笑った。

 それからマイクのスイッチをオンにして立ち上がると、テレビの横に行く。

 イントロが流れた後、歌い始めた。

 曲は明るくて軽快なミディアムテンポのロックだ。

 真奈さんの曲を歌う篠原も楽しそうだけど、こういうロックな曲も篠原に似合う。

 歌い終わって、メガネと文豪から歓声があがった。

 そして、メガネが聞く。


「篠原さんこのアニメ知ってたの!?」


 篠原はソファーに座ってから、言った。


「うん。中学の時軽音楽部に入っててキーボードだったんだけど、部活の友達にアニメすすめられて」

「へー、そうなんだ。オレ達3人もアニメ観てたけど、『バンドってかっこいい!』って思ったな。バンド推し」

「オレはドラム担当のキャラがかわいいと思う」


 文豪が言う。

 オレは口を開いた。


「オレはギター担当の主人公に共感しながら観てた」


 音海が呟く。


「音楽もののアニメだから観てたけど、断然ベース担当のキャラが好き」


 篠原が言った。


「好きなキャラ分かれてるね。ちなみに私はギターボーカル担当のキャラが好きだよ」


 その後も食べたり飲んだりしながらみんなで歌った後、篠原は音海に提案する。


「歌織ちゃん、次2人でデュエットしない?」

「いいよ」


 篠原は曲を選んで音海にタブレットを見せる。


「これとかどうかな?」

「うん。いいよ。歌える」


 それから、曲を送信した。

 2人はマイクのスイッチをオンにしてから立ち上がって、テレビの横に立つ。

 カウントの後、イントロなしで歌い出した。

 篠原と音海が選んだ曲は、2人組の女性ユニットが歌っている、ライトノベル原作のアニメのオープニングだった。


「オレが好きなアニメのオープニングだ!」


 文豪は声をあげる。

 篠原と音海の声の相性はぴったりで、ずっと聴いていられるくらいだった。

 そして、みんなで会計をしてからカラオケ店を出る。


「次はオタクの好きなところ行くぞー」


 メガネが言う。

 オレはみんなの後ろを歩きながら考えて、を思い出した。


「あのさ、オレが好きな場所、ちょっとここから遠いんだけど、それでもいいか?」


 みんなは首をかしげる。

 篠原が聞いた。


「いいけど……そこってどんな場所なの?」

「行ったらわかる」


 そして、オレはみんなを連れて思いついた場所に向かった。

 電車に乗ってからしばらく歩いて、その場所に着く。

 篠原が口を開いた。


「ここって――」


 オレが好きな場所、それは――。


「植物園?」


 いろいろな花が咲いている植物園だった。


「ここ、小さい頃によく来てて、花を観察しながら絵描いてたなーと思って」

「そういうことか」


 メガネと文豪が納得したようにうなずく。

 篠原が花を眺めながら言った。


「花っていろんな種類があるから、ずっと見ていられるよね」


 すると、音海が言った。


「私も花は綺麗だから好き」

「じゃあ、一緒にまわりながら綺麗だって思う花探そう」

「いいよ」


 そう言って、篠原は音海と2人で花を見に行く。

 メガネが言った。


「オレ喉かわいたから自動販売機でジュース買ってくる」

「あ、オレも一緒に行く」


 文豪が言う。

 そして、しばらく1人で植物園をまわっていると、篠原が隣に来た。


「瀬尾くん」

「篠原。音海と一緒じゃなかったのか?」

「一緒だったんだけど、いろんなところまわってたらはぐれちゃって」

「そっか」


 花を眺めていると、篠原はオレに聞く。


「ここ、私も前に来たことあるよね?」


 オレはうなずいた。


「うん。家族みんなでよく来てた場所」

「やっぱり」


 篠原は笑顔を見せる。

 そして、続けた。


「こうして2人で居ると、なんか、あの時みたいだね。幼稚園の時のこと思い出す」

「そうだな。ここ、オレが絵が上手くなりたいと思ったきっかけの場所だから、よく覚えてるんだ」

「そうなの?」


 オレはうなずいて、小さい頃の話をする。


「うん。初めてここに来た時、花の絵描いてたら篠原に『絵が好き』って言われて、絵が上手くなりたいって思った。オレの好きな場所」


 すると、篠原は顔を赤らめた。


「わ、私そんなこと言ってたの?」

「言ってた」

「そ、そっか。私がきっかけか。なんだか恥ずかしいな」


 オレが言うと、篠原は恥ずかしそうに呟く。

 そして、こう続けた。


「でも、それならこの場所は2人だけの思い出の場所にしておいてほしかったなー、なんて」


 その言葉に、胸の鼓動が高鳴った。

 オレはゆっくりと口を開く。


「そ、それってどういう――」


 その瞬間、風が吹いて、植物園の花が揺れた。


「わあ……!」


 風に乗って、花びらが舞う。


「すごく綺麗だね」


 オレは篠原の笑顔を見つめる。

 その瞬間、オレはようやく気がついた。

 ――オレは、篠原が好きだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る