Track.10 2人だけの思い出の場所
Voice.19 こうしないと遅れちゃうから
池袋駅に着いて、東口に向かう。
最初はメガネの好きなゲームセンターに向かった。
「やっぱりゲーセンって楽園だよなー!」
メガネは声をあげてアーケードゲームの台のところに行く。
篠原がメガネに聞いた。
「そういえば目崎くんってどんなゲームが得意なの?」
「まんべんなく得意だけど、一番はクレーンゲームかな。今日の腕試しに1回やってみるよ」
そう言って、メガネは箱に入ったフィギュアがあるクレーンゲームの台に行って、何個かある箱の位置を確認する。
そして、スマートフォンをかざしてお金を払った。
見た限りでは取りにくそうな位置にある箱を狙って、横にアームを動かす。
狙っている箱の前にアームが来たところで止めて、縦に切り替える。
そして、アームで箱の端を押して、穴に落とした。
「一発取り成功!」
「すごーい!」
「取りたいものとアームの距離を計算すれば取れるから得意なんだ」
メガネは取り出し口から景品を取って、得意げな顔をする。
文豪のほうに行くと、クイズのアーケードゲームをやっていた。
メガネが言う。
「あ、クイズトリックアカデミーじゃん」
「今最終問題で大事なところ」
「頑張れー」
メガネがそう声をかけて、オレ達は後ろから文豪を応援することにした。
「最終問題」のテロップが出て、問題が表示される。
「『ハートタッチラブキュア!』の主人公の名前は
クイズでよくある「ですが」という形式のひっかけ問題だった。
ラブキュアはラブリーとキュアを合わせた言葉で、変身ヒロインもののアニメだ。
1年ごとにヒロインが代わり、『ハートタッチラブキュア!』の主人公、花咲さくらは柚木真奈さんが演じている。
問題文を聞いた文豪は固まった。
「ヤバい、オレ女の子向けのアニメわからないんだけど……」
「オレも」
メガネが言う。
「私もラブキュアはあんまり見たことない」
音海が言った。
オレは柚木真奈さんが出てたから観てたけど、いざ答え教えようとしたらキャラが多すぎて覚えてるラブキュアの名前が混ざってる。
突然、篠原が呟いた。
「……キュアチェリー」
「え?」
その言葉を、オレ達は聞き返す。
すると、篠原は切羽詰まったように言った。
「答えはキュアチェリーだよ文谷くん! 時間なくなっちゃうから早く答えて!」
「わ、わかった」
篠原にせかされて、文豪か答えを入力する。
解答ボタンを押すと、「正解」のテロップが出て、ゲームクリアの効果音とキャラクターボイスが流れた。
「篠原さんありがとう! 助かった!」
「どういたしまして。私ハートタッチラブキュアは全話観てたからすぐ答え出てきたの」
篠原がラブキュアを観てた理由は、真奈さんが出てたからだろうな。
「よし。ひととおり遊んだし、次は文豪の好きなところ行こうぜ」
メガネの言葉で、次は文豪の好きなところに移動する。
行き先は本屋だった。
「すごいな。めちゃくちゃ本あるじゃん」
メガネが言うと、文豪が説明した。
「この本屋はオレが知ってる中でも一番大きい本屋だからな。ラノベだけじゃなくて一般文芸の小説とか漫画とか、家の近くの本屋よりもたくさんある」
店の中には等間隔で棚があって、本が並べられている。
カフェスペースもあって、飲みものを飲みながら本が読めるらしい。
広すぎて、ちょっとした迷路みたいだな。
そして、オレ達はそれぞれ好きな本を見て回ることにした。
オレは漫画コーナーで漫画を眺めて、気になるものを買う。
それから、みんなが居るところに戻ろうとした時。
近くで本を落とす音が聞こえた。
音のしたほうを見ると、女子が膝をついて床に落とした本を拾っていた。
「大丈夫ですか?」
駆け寄って、一緒に本を拾う。
「すみません」
その声に顔をあげると、笹山が居た。
「あ、瀬尾くん」
「笹山」
笹山は笑顔を見せる。
「すごい偶然だね。瀬尾くんも本買いにきたの?」
「まあそんな感じ。ゲーム制作部のみんなで池袋まわろうって話になって」
「そっか」
一緒に本を拾い終わって、オレが棚に戻そうとすると、笹山が言った。
「あ、その本、全部私が買う本だから渡してくれる?」
「え?」
オレと笹山が拾った本は10冊以上ある。
これを全部買ったら、きっとそうとうな金額になるはずだ。
「こ、この本全部買うのか?」
「そうだけど」
もしかして、文豪みたいな読書家なんだろうか。
オレは持っていた本を笹山に渡した。
「ありがとう。本を読むのは私にとって唯一の趣味だから」
そう言って、笹山は両手で大切そうに本を抱える。
その時。
「瀬尾くん」
後ろから、篠原に呼びかけられた。
「篠原」
そして、篠原はオレのほうに歩み寄ってくる。
「みんながそろそろ次の場所行くって。大丈夫?」
「ああ」
「じゃあみんな待たせてるから早く行こう」
篠原はそう言って、オレの右の手首を掴んで引っ張った。
いきなりのことに驚いて目をみはる。
「ちょ……っ、篠原!?」
「こうしないと遅れちゃうから」
「いや、そうだけど……!」
このまま本屋の中を歩くのは恥ずかしい。
しばらくして、笹山が見えなくなったところで、オレの手首を掴んでいる篠原の手がオレの手を握る。
そして、オレはみんなのところに行くまで篠原に手を繋がれていた。
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