Voice.18 じゃあ、みんなで探しにいかない?

「なんでここに居るの?」


 青色に近い黒色のストレートのセミロング。

 髪の色と同じ瞳。

 おしゃれで高そうな紺色のレースのワンピース。

 そして、一瞬見ただけでわかる、芸能人のような輝いている雰囲気。


「どうかした?」


 しばらくして、笹山に話しかけられた。

 オレは驚いて、 笹山に台本を渡しながら言う。


「あ、いや、その……同じ学校の人に偶然会うなんて思わなくて。オレは母さんに買いもの頼まれた帰り。笹山は?」

「私は演劇部のオーディションの練習」

「やっぱりそうだったのか。でも気をつけろよ。夜だし、今みたいに台本が風で飛ばされるかもしれないし」

「そうだね。気をつけるよ。台本拾ってくれてありがとう」


 なんだか話し方がおっとりしている。

 そして、オレ達は公園のベンチに座ることにした。

 オレと笹山は自動販売機で飲みものを買った。

 オレはサイダーを買う。


「笹山は?」

「私はミルクティーにしようかな」


 笹山はそう言って、アイスミルクティーを選んで買った。

 そして、2人でベンチに座って飲みもののキャップを開ける。

 飲んでから、ひと息ついた。

 すると、笹山がオレのバッグについているキーリングを見て聞く。


「それ、何のキーリングなの?」

「これは柚木真奈さんっていう声優さんのライブのグッズなんだ」


 オレが言うと、笹山は首をかしげた。


「声優って何?」

「え?」


 笹山は純粋無垢な表情でオレに聞いてくる。

 もしかして、アニメとかゲームとか知らないタイプなのか?


「声優っていうのは、アニメとかゲームとかでキャラクターに声をあてる仕事をしている人のことで……」

「へー。アニメも観たことないしゲームもやったことないからわからないんだけど、キャラクターに声あててる人が居るんだ」

「うん」

「私、キャラクターは本当に居ると思ってたよ。よくコスプレ?っていうの見かけるし」

「コスプレはキャラクターの衣装を着ることで、キャラクターは2次元なんだ」

「そっかー。現実には居ないんだね」

「ちなみに笹山、その感じだと漫画も知らないのか?」

「そうだね。言葉としては知ってるけど読んだことはないな。私は小説のほうがよく読むから」


 笹山の反応が素直すぎて戸惑う。

 すると、笹山は思い出したように言った。


「あ、瀬尾くんはそろそろ帰ったほうがいいんじゃない? 買いものの途中だったんでしょ?」

「そういえばそうだな。笹山はどうするんだ?」

「私は迎えに来てくれる人が居るから大丈夫だよ」

「そっか。じゃあオレは帰るよ」

「うん。また学校でね」


 そして、オレは家に帰った。

 それから、オレ達が部活に本入部して慣れてきた頃。

 ゲーム制作部では、ある問題が起きていた。

 前に3人で作ったゲームの企画書を読みながら秋葉先生が言う。


「やりたいことはとってもよくわかるんですけど……」

「けど?」


 秋葉先生の微妙そうな表情に、部室の椅子に座っているオレ達男子3人は息をのんだ。

 隣には篠原と音海も居る。

 そして、言った。


「どのゲームもアイディアを詰め込みすぎなので考え直したほうがいいです」

「えー!」


 その言葉に、メガネと文豪は声をあげる。


「この通りに作ったらゲーム1本作り終わる前に高校卒業しちゃいますよ」


 メガネが言った。


「でも作りたいものを作るのが部活じゃないですかー!」


 文豪もそれにのる。


「そうですよ。オレ達に好きに作らせてほしいです」


 すると、秋葉先生はため息をついた。


「僕も2人の言うことはわかりますよ。でもみんな部活だけじゃなくて、勉強とこれから学校行事もありますよね?」


 鋭く言われて、メガネと文豪は何も言えないのか、こう返す。


「た、たしかに……」

「それと自分達がゲーム作るのにどれくらいかかるのかわかってない最初にこのボリュームのゲームを作るのは無理です」

「じゃあどうすればいいんですか?」


 オレが聞くと、秋葉先生は言った。


「アイディアはすごくいいです。だから、作りたいものを明確にして、もう少しゲームに入れたい要素をしぼってみるといいと思います」


 秋葉先生の言葉に、オレ達は考え込む。


「作りたいもの……か。あらためて言われるとすぐに答えられないな」


 オレが言うと、メガネがうなずいた。


「そうだな。『ただゲームを作りたい!』って気持ちでこの部活立ち上げたから」


 文豪が言う。


「オレもなんでも書きたいタイプだからこの中から一番なんて決められない」


 すると、篠原が言った。


「じゃあ、みんなで探しに行かない?」


 そして、立ち上がって続ける。


「私達の作りたいもの」

「え?」

「どういうことかっていうと――」


 そして、篠原は続ける。

 その提案に、オレ達は目を輝かせた。

 ――よく晴れた日の朝。

 オレは歩いて最寄り駅の改札の前に向かっていた。

 待ち合わせの場所に行くと、私服の篠原が立って待っていた。


「瀬尾くん。おはよう」


 オレの姿に気づいて、篠原は声をかけてきた。

 今日は4月のゴールデンウィーク初日。

 オレ達ゲーム制作部は篠原に、『5人それぞれが好きなことみんなで体験して本当に作りたいものを探そう』と提案されて、5人で集まることにした。

 篠原の服装は、パステルピンク色のトップスに、白色のスカート。

 篠原によく似合っている。


「2人とも早いね」


 声をかけられて振り向くと、音海が立っていた。

 音海の服装は、黒色のTシャツに青色のジーンズ。

 かっこよくてクールな感じだ。


「か、歌織ちゃん」

「音海」

「歌織ちゃんも待ち合わせ時間よりだいぶ早いよ」

「私はいつも5分前行動だから」

「そっか」


 篠原が笑う。

 しばらくすると、メガネと文豪も待ち合わせ場所に来た。

 メガネがスマートフォンを見ながら言う。


「みんな集まるの早すぎない? 今時間ぴったりなんだけど」


 文豪が言った。


「そうだよな? オレ達が遅れたわけじゃないよな?」

「2人とも時間大丈夫だよ」

「よかった」


 篠原に言われて、メガネと文豪は安心したようにため息をつく。

 そして、5人で電車に乗って池袋に向かった。

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