Stage.3 惹かれ合う太陽と月
Track.9 空に輝く美しい月
Voice.17 なんでここに居るの?
――高校の部活の仮入部期間が終わった次の日。
オレ達1年生はそれぞれ入部届を出して、本格的に部活に入ることになった。
オレは美術部、篠原は演劇部、メガネはパソコン部、文豪は文芸部とゲーム制作部を兼部する。
音海は学校が終わった後に習い事で歌の個人レッスンを受けているから、ゲーム制作部だけに入ると言っていた。
「茉昼、お願い!」
篠原の声が、体育館に響く。
昼休み前の3、4時間目。
オレ達1年1組は、隣のクラスの1年2組と合同体育の授業を受けていた。
種目はバレーボールだ。
「まかせて!」
明石がジャンプをして、アタックを打つ。
「うわっ」
「こんなボール取れねーよー!」
速度が速すぎて、思わず2組の相手チームの男子達はボールをよけてしまう。
ボールは相手のコートに入り、大きな音が体育館に響いた。
審判をしている男性の体育の先生が笛を鳴らす。
「1組のAチームの勝ち!」
「やったー!」
Bチームのオレ達は歓声をあげた。
音海は篠原達と同じチームで、すました顔をしている。
試合が終わって得意げな顔をしている明石に、篠原が言った。
「茉昼すごい! ボール速すぎて見えなかったよ」
「そりゃ小学生からクラブ入ってて中高バレーボール部だからね。私が打ったスパイクは絶対取れないよ」
「私は運動神経悪いからうらやましい」
木暮が言う。
すると、向こうからバレーボールが転がってきた。
「ごめん。そのボール拾ってくれる?」
高いけれど落ちついた声で、2組の女子が言う。
篠原がボールを拾って、女子に渡した。
「はい」
「ありがとう」
2組のその女子は、やけにみんなに注目されている。
メガネが言った。
「あの子綺麗だよなー。美人でずっと眺めていたくなるタイプ」
文豪がうなずく。
「そうそう。そこに居るだけで輝いてるって感じ」
たしかに、2人の言っていることはわかる。
でも、どこか浮世離れしている気がした。
――放課後。
美術部に本入部届を出しに美術室に向かう。
そして、美術室のドアを開けた。
「……え?」
オレは思わず目をみはる。
そこには、木暮が入部届を持って立っていた。
なんでここに木暮が居るのかわからなくて驚く。
木暮はオレに気づいて、肩をびくつかせた。
「瀬尾が来る前にこれ出そうと思ったのに……!」
木暮はそう言って、不機嫌そうにうつむく。
「こ、木暮も美術部入るのか?」
オレがそう言うと、木暮はオレに歩み寄って言った。
「やっばり私のこと覚えてないんだ」
「え?」
「私中学の時、美術の展覧会で瀬尾の次の賞だったんだよ」
そう言われると、中学生の時美術の展覧会でオレの絵が選ばれた時、木暮の名前を見た気がする。
「なんとなくだけど思い出した」
だから最初からずっとオレに冷たかったのか。
すると、木暮はため息をつく。
「瀬尾が美術部に仮入部してるのわかってたから、仮入部期間中どこの部活にも入らないで、今日美術部に入部届出しに来たのに」
オレは木暮をなだめるつもりで言った。
「オレのことなんて気にしなくていいよ。美術部では1人で絵描くつもりだから」
すると、木暮はオレを見透かしたように淡々と口を開く。
「そうやってすぐ自分のことなんてって言うのやめたほうがいいよ」
「……でも、自分が人と話すの苦手なのは昔からそうだし」
「もっと自分に自信持ちなよ。あんなに絵上手いんだから」
そう言われてふと、中学の時に自分の絵が選ばれた時のことを思い出した。
オレは木暮から目をそらす。
「……でも、あの時選ばれた絵はあんまり納得いってなかったから――」
「あ!」
すると、美術部の先輩の女子がドアを開けて入ってきた。
「ねえ、もしかして美術部に入部希望の1年生?」
「はい」
木暮と声がそろう。
「やった。私部長だから入部届預かるよ。入部してくれてありがとう」
そして、美術部に入部届を出してから木暮と昇降口に向かうと、篠原が居た。
「あ、瀬尾くん。夕乃。今帰り?」
「ああ。今美術部に入部届出してきたところ」
「そっか。私も演劇部に入部届出してきたよ」
「演劇部ってどんな雰囲気なんだ?」
「えーっと、先輩も先生もいい感じの人で、みんなまとまってて、いい劇作りたいってやる気に満ち溢れてる」
「わりとひとりひとりで活動してる美術部とは全然違うな」
「そうかも。みんな中学も演劇部だった子ばっかりだから、私ももっと頑張らないと」
そして、篠原は思い出したように言った。
「あ、それと、今日体育の授業で一緒になった2組の子も居るんだ」
「けっこうみんなから注目されてた人?」
「うん。私がポール拾った子。あの子すっごく演技上手いんだよね」
「今日見た感じからは想像つかないけど」
「見たらきっと驚くよ。私も最初普段と違いすぎて驚いたもん」
そして、オレは明石と木暮と3人で帰る篠原を見送ってから、メガネと文豪と3人で家に帰った。
――その日の4月の満月の夜。
オレは母さんに頼まれて、コンビニに買いものに行っていた。
スマートフォンを見ると、午後8時と表示されている。
「まさか夜に買いものに行かされるとは思わなかった」
それにしても、母さんに言われたとおりに買いものしたらけっこう袋が重い。
喉もかわいたし、近くの公園の自動販売機で何か飲みもの買おう。
帰り道にあった公園の中に入ると、噴水の前に誰かの姿が見えた。
台本を読んでいる。
すると、その姿が満月の光に照らされた。
そこに居たのは――。
オレ達のあいだで話題になっていた、2組の
篠原が言った通り、演技をする笹山は、学校で見た時とは全然雰囲気が違う。
こんな時間まで練習してるのか。
すると、突然風が吹いた。
笹山が台本から手を離す。
台本は風に飛ばされて、噴水のほうに飛んでいった。
笹山はそれを掴もうとする。
あのままじゃ噴水に落ちるぞ。
「危ない!」
オレは叫んで、笹山のほうに向かう。
そして、手をのばしてなんとか台本を掴んだ。
何事もなくすんで、オレは胸を撫でおろす。
しばらくして、声をかけられた。
「す、すみません。……ってあれ?」
そして、オレを見て目をみはる。
「なんでここに居るの?」
笹山はそう言って、首をかしげた。
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