Voice.8 大切にするね

 オレ達は女性向けの雑貨店に入ることにした。

 3人で一緒に見てまわりながら買うものを探す。

 男のオレにはどういうものがいいのか全然わからないけれど、明石と木暮は相談しながら買うものを決めていた。

 何を買ったらいいか悩みながら店の中を見る。

 すると、あるものが目にとまった。


「これ……」


 オレはそれを手にとる。

 眺めていると、明石に声をかけられた。


「瀬尾くん、どうかした?」

「あ、いや、その……これいいなって思って……」


 明石はオレが手に取ったものを見る。

 すると、からかうように笑って言った。


「へー。アクセサリーかー」

「や、やっぱり友達なのに男がこういうの選ぶのって変だよな」


 元あった場所に戻そうとすると、明石は首を横に振った。


「ううん、変じゃないよ。かわいくていいと思う」

「そうか?」

「うん。私だったら嬉しいよ」


 すると、木暮がやってきた。


「どうしたの?」

「瀬尾くんがこれいいなーって言ってて」


 木暮はオレが持っているものを見る。


「夕乃だったらどう?」


 明石が聞くと、木暮はしばらくしてから小声で言った。


「嬉しい」

「だって。買ってもいいと思うよ」


 2人に背中を押されて、オレは安心する。


「……じゃあ買ってくる」


 そして、それぞれ買いものをしてからある場所に向かった。

 明石がインターフォンを押して、みんなでしばらく待つ。

 すると、ドアが開いて篠原が出てきた。

 オレ達は声をそろえる。


「誕生日おめでとう!」


 ――4月10日。

 今日は篠原の誕生日だった。

 篠原が驚いた顔をする。


「え!?」

「今日の放課後、私と夕乃と瀬尾くんと3人で朝陽の誕生日プレゼント買ってたんだ」

「今日学校で帰りの支度してたら明石からライン来たから驚いたよ」


 そして明石から順に、篠原への誕生日プレゼントを渡した。

 オレも篠原への誕生日プレゼントを渡す。


「これ、髪につけるリボン?」


 オレが選んだのは、赤色のリボンだった。

 明石達が居るから、スノルバの里奈ちゃんがつけてるリボンに似てたから選んだ、とは今は言えないけれど、篠原はなんとなく気づいたみたいだ。

 篠原にどう思われているかが気になって、思わずうつむく。


「えーっと……その……篠原に似合うかなって思って……」

「ありがとう。すごく嬉しい」


 そう言って、篠原は笑った。


「大切にするね」


 すると、明石達がわざとらしく声をあげる。


「さて、2人の邪魔になるといけないから私達はそろそろ帰ろうかな」

「そうだね。邪魔になるからね」

「ま、茉昼!? 夕乃!?」


 オレ達が戸惑っているあいだに、明石達は背中を向けて遠ざかっていく。


「じゃあ2人とも。また明日ねー」

「また明日」


 そして、明石と木暮は帰っていった。


「もう。急に気遣うんだから」


 篠原がため息をついて言う。

 オレは、篠原のほうに向き直った。


「篠原」

「何? たっくん」

「それ、スノルバの里奈ちゃんがつけてたリボンに似てて……だから選んでみたんだけど……」

「あ、やっぱりそうだったんだ」

「うん」


 そして、続けた。


「篠原」

「何?」


 篠原がオレの目を見る。

 オレは大きく息を吸って、言った。


「誕生日おめでとう」


 オレの言葉に、篠原は嬉しそうな表情をする。

 そして、笑った。


「ありがとう。たっくん」

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