Track.4 初めて選んだプレゼント

Voice.7 放課後、時間ある?

 ――次の日の朝。

 オレはある用事で、いつもより早めに学校に来た。

 教室のドアを開ける。

 すると、黒板の前に篠原が居た。

 オレがドアを開けた音に気づいて、篠原は笑顔を向ける。


「あ、瀬尾くん。おはよう」

「おはよう。篠原」


 教室の中には誰も居ない。

 オレはチョークを取って、黒板の端の空いている部分に今日の日づけと曜日を書く。


「今日は4月10日の水曜日か」

「そ、そうだね」

「篠原はいつも早起きだな」

「そうかな? 普通だと思うけど」


 そして、一番下に自分と篠原のフルネームを書いた。


「普通日直当番だからって篠原みたいに先生に言われた時間より前に来ないぞ」


 オレのある用事というのは、篠原との日直当番だった。


「瀬尾くんはいつも時間ぴったりに来るよね」

「布団が離してくれないんだ」


 オレがおどけて言うと、篠原は小さく吹き出して笑う。

 そして、オレと同じようにおどけて言った。


「……じゃあ、私が毎日朝電話して起こしてあげようか?」

「え!?」


 篠原の言葉に顔が熱くなる。

 それから焦って廊下に出て、周りに誰も居ないか確認した。

 そんなオレを見て、篠原は首をかしげる。


「まだ登校時間前だから誰も居ないよ?」

「誰か居て今の聞かれてたらどうしようかと思った」


 すると、篠原は笑みを浮かべる。

 そして、言った。


「2人っきりだから言ったんだよ」


 その言葉に、胸の鼓動が高鳴る。


「おはよー! 朝陽」


 すると、金色のショートボブの髪を揺らしながら、篠原の友達の明石茉昼あかしまひるが大きな声で教室に入ってきた。

 篠原が声をあげる。


「茉昼」

「瀬尾くんと2人で仲よく話してるのもいいけど、早くしないと先生来ちゃうよー」


 からかうように言う明石に、篠原は顔を赤らめた。


「あのー……私達の会話どこから聞いて……」

「大丈夫! 何も聞いてないから気にしないで」

「茉昼、本当は教室入る前に聞こうとしてたよね?」


 鋭い声が聞こえて、オレ達は声がしたほうに顔を向ける。

 そこには、茶色のセミロングの髪を耳より下でツインテールにしている、篠原の友達の木暮夕乃こぐれゆのが居た。

 明石は口をとがらせる。


「もー。バラさないでよ夕乃」

「茉昼はすぐ人のことからかうからダメ」

「えー。つまんなーい」


 すると、木暮がオレを見た。


「えーっと……」


 そして、オレのほうに歩み寄ってくる。


「その……オレに何かあるのか?」


 オレがそう言うと、木暮は不機嫌そうにそっぽを向いた。


「……なんでもない」


 その態度にオレはどこか引っかかる。

 すると、教室に入ってきたメガネと文豪が声をかけてきた。


「おはよう、オタク」

「おはよう。メガネ、文豪」


 オレはメガネに聞く。


「そういえば、部活を作るのはいいけど、なんでゲーム制作部なんだ?」


 すると、メガネは目を輝かせて言った。


「オレ、前から3人で何か作ってみたいと思ってたんだ。それで、ゲームなら3人の得意なこと生かしておもしろいゲームができるんじゃないかって思ってさ」

「絵とプログラミングと小説か。たしかにゲーム作れそうかも」


 メガネは続ける。


「それで、担任の先生に昨日相談したら、顧問の先生と部員5人で部活作れるって言われたんだけど……」

「顧問と部員が足りないな」

「そう! 顧問の先生は担任の先生がゲーム詳しいらしくて顧問になってくれることになったんだけど、少なくとも部員があと2人は必要なんだよ。だから、部活に入ってくれる仲間を探そうと思うんだけど……」

「なになに? なんかおもしろそうな話してるね」


 明石にいきなり声をかけられた。

 メガネは口を開く。


「ゲームを作る部活作ろうと思ってるんだ。明石さんゲーム興味ある?」


 明石は軽い口調で言った。


「うーん、ゲームかー。スマホのパズルゲームしかやってないからあんまり興味ないや」


 やんわりと断られて、オレ達は落ち込む。


「でも、何かあったら手伝うよ」


 次の瞬間そう言われて、一気にテンションが上がった。

 メガネが言う。


「オッケー。その時は頼む」

「よろしくー。あ、ライン交換してもいい?」


 そう言われて、オレ達3人は明石とラインを交換する。

 それから帰りの支度をしていると、スマートフォンが鳴った。

 スクールバッグからスマートフォンを取り出して、画面を見る。


「放課後、時間ある?」


 そこに表示されていたのは、明石からのラインだった。

 そして、オレは最寄り駅の改札の前で明石と木暮と3人で待ち合わせをする。

 しばらく待っていると、明石と木暮が歩いてくるのが見えた。


「ごめんねー! 急に呼び出して」


 明石が笑顔で言う。


「いや、何も用事なかったし大丈夫」

「よかった。瀬尾くんも買うかなーと思って」


 すると、木暮がオレ達に呼びかけた。


「ほら、そろそろ行こう」


 そう言った声は、少し刺々しい。

 なんとなく木暮はオレに冷たい気がする。


「あ、ああ」


 そして、オレ達は電車に乗って池袋駅に向かった。

 池袋駅に着くと、東口に出てサンシャインシティに入る。


「でも、どんなものがいいかわからないな」


 オレが言うと、明石は笑った。


「いつもなら先に聞いてから買うんだけど、今年はサプライズにしようと思って」

「きっと驚くよ」


 木暮が言う。

 オレ達は女性向けの雑貨店に入ることにした。

 3人で一緒に見てまわりながら買うものを探す。

 男のオレにはどういうものがいいのか全然わからないけれど、明石と木暮は相談しながら買うものを決めていた。

 何を買ったらいいか悩みながら店の中を見る。

 すると、あるものが目にとまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る