第七話 Confession

約束の水曜日がやってきた。今日俺は渡良瀬に告白する。そう思うと心拍数が数段上がる。


時刻は朝10時前。ソワソワしているのもあり早く家を出てしまい集合時間よりも随分早く着いてしまった。平日ではあるが夏休みはまだ続いているので学生は多い。少し時間があるので持ってきていたイヤホンを耳に入れお気に入りの曲を流す。


ふと思う。2年生になるまで本当に何も無かったのにいつの間にか渡良瀬と昼ご飯を一緒に食べることも話すことも日常になっていた。こんな未来になるなんて過去当時の俺には想像できないだろう。なんたって渡良瀬の存在自体知らなかったんだから。我ながら周りに興味なさすぎだろ…


そんな風に浸っていると肩をちょんちょんとつつかれた。


「あ、あれ、渡良瀬早いな」


イヤホンを外しつつかれた方を見ると前買っていた黒のキャミワンピースを身に纏っている渡良瀬が立っていた。


「楽しみ過ぎて…」


少し頬を赤らめながらもじもじしながら渡良瀬が言う。…いや可愛いな!おい!好きになって改めて見る渡良瀬可愛すぎだろ。


「もしかして深山君も…?」


「ま、まぁ…」


「ふふふ~ん、深山君も楽しみにしてくれてたんだ~?」


素直に自分もそう思っていることを伝えると渡良瀬は一瞬驚いたような顔をしてぱぁっと花咲いたような笑顔に変わる。あぁこれ俺大丈夫かな。


「じゃ、行こっか!今日は深山君のプランに従うよ!」


「お、おう」


今日は予めある程度の予定は考えてきた。とは言っても本当に大まかで入館した後は少し順路に従いながら途中で昼食、その後に行われるイルカショーを見る。見終わった後は残りをゆっくり見て最後水族館の近くにある観覧車で告白。というのが今日のプランだ。ありきたりすぎるような気がするって?捻り入れれる経験値なんて持ち合わせてないので許してほしい。


いざ入館!したまではよかった。しかし昼食までの記憶がほとんどない。なんかクラゲを見てテンション上がってた渡良瀬が可愛かったことだけ覚えている。


「はぁ…」


今渡良瀬はトイレで一人で席に座っている。

なかなか上手くいかないなぁ。楽しんでくれているかな。考えるとずっとマイナスなことばかり考えてしまう。切り替えないと。と頭を振り思考を切り替え返ってくるのを待っていると前から渡良瀬が歩いてくるのが見えた。その途中も周りから視線を集めていた。本人はやはり何も気にしている素振りを見せていない、というより知らない様子だった。


「お待たせ〜…ってそ、そんなに見られると恥ずかしいんだけど…もしかして何かついてる!?」


自分の顔をぺたぺたと触りあたふたしている。このまま『つい可愛くて』なんて気障なことも言おうかと思ったが生憎それを言えるほどの度胸も自信もないのでただたどたどしく謝ることしか出来なかった。


昼食には俺はカレー、渡良瀬はフィッシュバーガーを。水族館に来て魚を食べたくなる人が居るとは聞いたことあるが本当に居るとは…

食べ終え少し離れた場所のイルカショーの会場へ足を運ぶ。夏休みとはいえ平日ということもあり席はちらほら空いていた。渡良瀬は前方の方に座ろうとしたが何とか止めることが出来た。下調べしたから知っている。前の方はめちゃんこ濡れる。濡れれば自ずと透けてしまうわけで。そんなことになればその後の時間気まづくなってしまうこと間違いなし。後目のやり場がなくなる。

という事で濡れないであろう真ん中の端の席を取った。待っている間前の方に座れないことに拗ねていたが始まる頃には目を輝かせステージに釘付けになっていた。その横顔はとても絵になっていた。気づけば俺は渡良瀬に釘付けになっていた。


「いやぁイルカすごかったね!飼育員さんと息ぴったしだったしあんなに芸できるなだね!」


「そうだな」


 興奮気味にさっきまで見ていたイルカショーの感想を語る。実際すごかった。初めて見たわけではないが小学生3年生以来、記憶にも微かに残っている程度だ。やっぱ動物いいよな、心癒される。渡良瀬にずっと釘付けになっていた訳ではなく彼女の「わぁすごい!」という声につられショーの方に目を向けると今度は飼育員さんとイルカのコンビネーションに目を奪われた。ボールを使ったパフォーマンスや空高くジャンプも素晴らしかった。ちなみに前方の席は下調べ通りびちゃびちゃになっていた。それを見て渡良瀬は羨ましそうにしていた。え、濡れたかったのかなこの子。


 それから残りの順路通り見る。ジンベイザメを見て「でかいね!私何人分くらいだろ」とかペンギンに「可愛い!写真撮りたいなぁ」と上目遣いで見られツーショットを取ったりもう付き合っているのではないかと思ってしまうほどカップルのようなことをしていると思う。


「えへへ…もうちょっとで終わっちゃうね。せっかくだしなんかお土産買わない?」


「あぁいいな」


 渡良瀬の提案により水族館の中にあるお土産ショップを見に行く。

 イルカのキーホルダーやペンギンのぬいぐるみ、クッキーやチョコなどのお菓子など色々あり渡良瀬も悩んでいる様子だった。


「ん~悩むなぁ…あっ、これいいかも」


といって手に取ったのはクラゲのデフォルメされたキーホルダーだった。


「み、深山君…よ、よかったらなんだけどお、お揃いなんてどう…かな?」


 どんどん声がちっさくなって行き耳まで真っ赤になった。可愛い。


「そ、そうしようか。じゃあ一緒に買うよ」


「え、いや悪いよ」


「この前プリクラは出してもらったしそのお返しってことで」


この提案にすごく渋々といった表情で頷いてくれた。世の中には男に払わせることが当たり前と思っている女性もいる中、渡良瀬はきちんと自分の分は支払おうとしているあたり本当にいい子なんだろうなと思う。


 お土産ショップを後にし買ったキーホルダーを渡すと心底幸せそうな顔を浮かべていた。


「ありがとね!これ学校の鞄とかにつけようかな~あでもなくしちゃ嫌だからなぁ…深山君はどうする?」


「俺?ん-…キーケースとかに付けようかな。毎日使うものだし」


「なるほど!私もそうしよっ」


 鞄からキーケースを取り出し手慣れた様子でキーホルダーを付ける。


「えへへ…大事にするね!」


 キーホルダーだけでこんなに喜んでくれる女の子いるだろうか。いや知らない。なんたって他の子知らないもんね。


水族館でのプランを終えついに勝負の時が来る。


「今日は楽しかったなぁ~ありがとうね、深山君!」


「俺も楽しかったよ。…渡良瀬、もうちょっと時間いい?」





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