第五話 FIRST DATE III
あんな事があったのだからもう帰るかと聞くとブンブンと顔を振り大丈夫だと主張してくる。
「まだしたいことがあって…いいかな」
彼女の上目遣いを見て拒否できる男は居るのだろうか。何度か見てきたが相変わらず破壊力がすごい。
「いいけど」
当の本人は断られると思っていたのか返事を聞いてぱぁと明るい表情になった。何をするかは分からないが俺に出来ることで喜んでもらえるならいくらでもする。
…と思っていたのだが渡良瀬と来たのはゲームセンターだった。最初は何か取って欲しいものがあるのかと思っていたのだが最終的に着いたのは…
「プリ…クラ…?」
そう。プリクラだ。あのカップルや女子が友達とかと撮るあのプリクラだ。もちろんだが撮ったことなんてない。
「思い出として残したいなぁって。スマホでも残せるんだけど何だかそれって味気ない気がして…」
渡良瀬の言うことも分かる。スマホの中に残すよりも形として。きっとそれは今風では無いのかもしれない。でも俺もそれがいいと思う。
「…撮るか」
そんな一言に渡良瀬の表情が明るくなった。ほんと分かりやすいな。
意を決しプリクラの中へ。「お金を入れてね」という機械の声が聞こえてくる。ここは流石に俺が出そうと思い財布を出そうとすると渡良瀬に止められた。半分ずつにしようという案も出したが「私が撮りたいから」と言って受け入れてもらえず。
「あ。始まるよ!」
「ポーズを決めてね」という声が聞こえカウントダウンが始まる。ポーズとか知らねぇ…と頭を唸らせてる俺にカメラを見たまま渡良瀬はグッドポーズをしている。なるほど!あれか!渡良瀬が作ったグッドポーズ
に合わせるようにハートマークを作る。これ結局なんなんだ?
4、3とカウントが進み1になると渡良瀬の手の形が変わった。それも俺の手に合わさるように。撮られた写真には2人の手でハートマークが作られていた。
「わ、渡良瀬!?」
「つ。次始まるよ!」
照れがちな渡良瀬でもこれは普通に出来るのかと思い横を見ると今までにないくらい顔を赤くしていた。自爆するならやめとけよと思うが赤い顔で楽しそうに笑っていたからこっちも恥ずかしい思いをした甲斐があった。
その後も何ポーズか撮りその度に渡良瀬は顔を赤くしていた。それが面白くてあまり写真が得意じゃない俺も自然に笑えた。
写真が出来るのを待っている間周りを見回すとやはり女友達同士で来ているのがほとんどで圧倒的なアウェイ感があった。…傍から見たらカップル見えるのだろうか。
「あ、できたよ!はい!」
嬉しそうに写真を取り出し4枚の写真を2つに分け渡してくれた。その写真には最初に撮ったあの写真があり思わずにやけてしまった。
「えへへ…ツーショットだぁ」
にやけているのは俺だけではなかったみたいで…そこまで自分との写真を喜ばれると流石に勘違いしないのは無理があるだろ…
一人心の中でドギマギしながらゲームセンターを後にした。
時刻としては15時。渡良瀬はあんなことがあった後だ。本人は大丈夫だと言っていたが流石に心配なので送ることにした。そろそろ渡良瀬は自分が可愛いことを自覚した方がいい。
「ごめんね、反対側なのについてきてもらって」
「いいよ。流石にそのまま解散はできないし」
送ると伝えたとき何度も断られたが渋々受け入れてもらえた。
時間が少し早かったこともあり電車の中は空いてており二人一緒に座ることができた。電車の中でもプリクラを眺めていた。その姿は完璧とは程遠いただ欲しいものを買ってもらった子供のようだった。…まぁ最初っから完璧なのかは怪しかったけど。
「これどうしよっかなぁ…持っておきたいけど…」
渡良瀬がうーんと唸っていると何かを見つけたように「あ」とつぶやいていた。
「これスマホにも読み込めるんだ!待ち受けにしようかな~」
本当に楽しそうに笑うなと思いながら見ているとあっとこっちを向いてきた
「いいかな?」
出たっ!渡良瀬の上目遣い!ダメージがでかい!
しかし流石に俺が渡良瀬のロック画面に出るのは恥ずかしいというか…もしかしたら他の人に見られる可能性があるし…と思案していると一つ思いついた。
「えっと…ロック画面は恥ずかしいからホーム画面なら…」
そう。ホーム画面。渡良瀬に見られてると考えるとかなり恥ずかしいが他の人に見られるよりはましだ。
「やった!じゃあそうするね!」
スマホにさっきの写真を取り込み慣れた手つきでホーム画面を変えている。その時も顔はニヤニヤしていて。鼻歌なんかも歌っていて完全に上機嫌の様子だ。
「できた!じゃじゃん!」
そうこちらに向けてきた画面にはあのハートマークを作っている写真だった。
「恥ずかしかったけどなんだかこれが一番お気に入りなんだ」
目を細めついさっきのことなのに懐かしんでいるような表情だ。横目に彼女を見つめる。
いつの間にか芽生えた気持ちに気づかないふりをしていた。この関係が壊れることが怖かったのかそれとも、ただ自分に自信がなかったのか。
俺は渡良瀬美月が好きだ。
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渡良瀬の最寄り駅に着き歩いているとやはり道行く人の視線を集める。ほんとはモデルかなんかなんじゅないかと疑い始めているくらいだ。
ちなみに渡良瀬の家は駅から徒歩で十分くらいらしい。
歩いている時の話題はほんとに他愛無いもので夏休みなにしてるだとか宿題はやってるかとか。そんななんて事のない会話も前に比べれば自然にできるようになったし何より楽しい。
「あ、ここだよ!私の家」
そういって指していたのは一般的な一軒家だった。
「深山君、送ってくれてありがとうね!今日とっても楽しかった!」
「俺も楽しかった。…あのさ」
「どうしたの?」
言い淀んでいる俺に首をかしげている。「また遊ぼう」というだけなのに断られることを考えてしまいなかなか声が出ない。わかっている。きっと渡良瀬は断ったりしない。ただ長年沁みついた癖はなかなか抜けてくれない。
「えっと…」
言えない自分が情けない。でも渡良瀬は待ってくれている。俺が言うことを。
深く息を吸い覚悟を決める。
「もしよかったらまた遊びたい。」
自分でも驚くほどすらっと出たと感じた。前にいる渡良瀬に目を向けるとぽかんとしていて徐々に目がきらきらと輝いてきた。
「うん!色んなとこ行こ!」
はしゃいでる。そんな渡良瀬の姿を見て少し勇気を出してよかったと思えた。
「それじゃまたね!次行くところ考えておいてね!私、深山君の好きな事知りたいから!」
ばいばいと手を振り扉の中に消えていった。
…最後にめっちゃ難しいこと言われたくね?
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