第三話 FIRST DATE Ⅰ
夏休み。高校生、いや学生にとってそれはオアシスのようなものだ。友達や家族はたまた恋人と過ごす人がほとんどであろう。そんな中俺はというと…
「あ、配信はじまる。」
家でダラダラと過ごしていた。何せ外が暑すぎる。毎年思うけど今年の夏暑すぎない?外出れないよ。
タブレットを机の上に自立させ配信待機画面を開く。良かった間に合ったようだ。ここ最近は推しのVTuberの配信を毎日見ている。あと少しで始まるという時に横に置いていたスマホが振動した。どうせSNSか親からのメッセージだろうけど一応確認だけしておこうと画面を開くとどちらでもなく「Mituki」という名前と「明日良ければ私に付き合ってくれませんか?」というメッセージだった。それに続けて「深山君に服を選んで欲しくて」とメッセージが届いた。
「…え?」
思考が停止した。推しの声も頭に入ってこない。渡良瀬と俺が出かける…?そんな現実味のないイベント。そもそも女子と出かけるなんて小学生の頃以来だろうか。しかもその相手は渡良瀬だ。学園で最も人気と言っていい彼女だ。男なら誰でもきっと喜ぶであろう。かくいう俺も正直嬉しい。だから整理しきれていない頭で「俺で良ければ」と返信した。冷静になったらなんだそれかっこつけんなと一人羞恥心と戦うことになったのだった。
翌日
昨日はというと非常にソワソワしていた。日が経つのが遅く感じてしまうほどテンションが上がってしまっていた。おかげで寝れず寝不足気味なのだが。
返信した後すぐに「ほんと!?ありがと!」というメッセージと今日の目的地が送られてきた。
ソワソワした気持ちのまま目的地兼集合場所である大型ショッピングモールにやってきた。場所としては俺の家の最寄り駅から2駅にありそこそこ有名なことと夏休みということもあり人が多い。これ渡良瀬俺の事見つけられるかな。そんな俺の心配をよそに最近よく聞くようになった声が聞こえた
「深山君!おまたせ!」
声の方を振り返ると制服ではなく私服を身にまとった渡良瀬がいた。フリルの付いた白いペプラムに少し短めのショートパンツ、そこから伸びる白く細く長い脚。知らない人からすればモデルかと思われても不思議では無い。その証拠に歩いている人達からの視線が渡良瀬に集まっていた。「可愛い」や「モデルさんかな」と言った声もチラホラ聞こえてくる。
「いや俺もさっききたとこ」
よくある常套句を自分が使うとは…とふと一つ疑問に思っていたこと、メッセージが送られてきた時からの疑問が口から出ていた。
「どうして俺なんかを誘ってくれたんだ?」
「え?」
豆鉄砲を食らったかのように目を丸くしたかと思ったら今度は頬を少し膨らませた。
「俺なんかなんて言わないでほしいな。誘った理由は…まだ言えない…けど。私は深山君がいいから誘ったの。だからそんな風に自分を下げるような言い方やめてほしいな」
やめてほしい。そんなこと言われてしまうと勘違いしてしまう。自惚れている自分を頭の中でぶん殴り短く「すまん」とだけ言った。その言葉に納得したのか膨らませていた頬を戻し今度は元気な笑顔をこちらに向けた。
「それじゃ行こっか!」
彼女に手を引かれ…なんてことはなかったがそういって歩き出す彼女に付いていった。
「ねぇ!これとかどう?」
ショッピングモールに着いて少し見て周り渡良瀬が気になった店を見つけたらしく色々商品を手に取り合わせて戻してを繰り返していた。その中で気になったのを俺に見せて似合ってるかと聞いてくる。正直俺はセンスがいい訳では無いと思う。だからどうして俺なのかと思うのだがまた怒られてしまう気がした。それに渡良瀬ならきっとどんな服でも似合うように思える。だからそのままを伝えた。
「それもいいと思う。でも渡良瀬はなんでも似合うと思うよ。」
そう言ってしばらく何も返ってこなかったので渡良瀬を見ると顔を真っ赤にしていた。え、なんで?
「あ、あはは。嬉しいけど照れちゃうな」
手に持ってた服で口元を隠して上目遣いでこちらを見てくる。渡良瀬の可愛さとその仕草が合わさりとんでもない破壊力だった。
「んー…あ、そうだ。じやあ試着してみるから選んでよ!ちなみにどっちもはダメだよ?」
俺の返事を聞かず試着室に入っていった。女子の服選びなんてハードル高ぇよ…
それに目の前の小さな試着室という部屋の中で今渡良瀬は着替えている。その事実に何もしていないのに少し罪悪感を抱いてしまう。
意識を別に向けるためスマホでSNSを眺める。推しの配信告知にいいねをつけると渡良瀬の入っていた試着室のカーテンが開いた。
「じゃじゃーん!ど、どうかな…?」
目を奪われた。服装としてはよく見かけるような淡色のアーチロゴの入った少し大きめのTシャツにさっきまで履いていたものよりも少し長めのショートパンツ。しかしそのどちらも彼女の良さを引き立たせていた。Tシャツは女子にしては少し背の高い渡良瀬でもダボッと着れるような大きさで勝負服というよりも普段着る服と言った印象だ。ショートパンツも先程よりも露出度は少ないもののやはり彼女の脚の長さを際立たせている。
「めっちゃ似合ってると思う。」
こういった時自分のボキャブラリーの無さが恨めしく思うが渡良瀬はどうやら満悦のようだった。「じゃあもう一着」とまたカーテンを閉めさっきと同じくらいの時間を空けてまたカーテンが開いた。
衝撃が走った。先程までとは打って変わって大人の女性といったイメージのコーディネートだった。
少しリボンがあしらわれた黒のキャミワンピースだった。露出はないがタイトで元々細い渡良瀬の体をさらに細く見せ黒色が彼女の綺麗なブロンドヘアを際立たせる。渡良瀬の可愛らしいさとキャミワンピースの大人らしさが共存し暴力的な魅力を放っていた。
どうやら見惚れてしまっていたらしくもじもじとしていた。どんな仕草でも渡良瀬がしてしまえばとてつもない破壊力を持つ。危うく「可愛い」なんて俺が言っても困らせてしまうだけの言葉を言いそうになり飲み込みそれ以外の素直な感想を伝えた。
「その…俺はこっちが好きかな。渡良瀬に良く似合ってる。」
照れくさくて頭を掻いた。言われた当人ももじもじとしていた。傍から見たら何見せられてんだって思うような光景だ。
「じゃ、じゃあこれ買う!着替えるから待ってて!」
先程よりもさらに嬉しそうな笑顔を浮かべカーテンを閉めた。経った二着の試着だけど渡良瀬が着ていたからそれ以上のボリューム感だった。
着替え終えた渡良瀬は最初に着た服を戻しもう一着を手にレジへ向かった。その足はなんだかいつもより軽やかなように見えた。
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