第二話 clumsy personality

これは私、渡良瀬美月わたらせみつき深山みやま君との最初の出会い



4月の始まり、新しい環境の始まり。


例に埋もれず私も新しく学校生活が始まる。電車で1時間ほど、そこからバスで15分ほどの場所にある学校に通い始めることなった。


中学までは地元の学校に通っていたので基本徒歩だった。だから今日が私の初めての電車通学。少しのワクワクと不安を胸に入学式の日を迎えた。


新生活初日ということもあり余裕を持って家を出た。最寄りの駅に着きホームに上がると丁度電車が行ってしまったので先頭で電車を待つ。後ろにもスーツを着たサラリーマンや同年代であろう制服を着ている人がぞろぞろと並び初めこれが通勤ラッシュなのかと初めての経験に少し成長したような気になった。しかし乗車する時に満員電車を舐めていたことに気づくのだった…


定刻通りに電車が到着し乗車していた人たちが降りその後乗車する。さあ乗ろうと一歩踏み出そうとした時後ろに並んでいた人たちが勢いよく乗っていく。それに押され転倒しそうになり近くに捕まった。しかしすぐまた押され結局扉付近まで押し込まれた。駅員さんのアナウンスが聞こえ扉が閉まり電車は少し揺れ発進した。


(うぅ…狭いよぉ…これが満員電車かぁ…)


身動きが取れず乗り換え駅までの数駅このままなのかなと思うと気が遠くなりそうだけどこれからも乗るんだからと耐えようと決心した。


発進してから少し経ったとき太腿あたりに何かが当たった感覚があった。窓を見ると後ろにはスーツを着た男性が立っていた。歳は私のお父さんくらいで背は高い。180はあるだろうか。満員電車だから鞄かなにかが人に当たることもあるだろうと気にせずにいると太腿に感覚があった。


…痴漢だ


怖い。正直私はニュースなどの記事を見ても「私には関係ない」「抵抗くらいできるだろう」なんて思っていた。しかし自分が当事者になると声を上げることも出来なかった。周りの誰も気づかない。助けてもらえない、自分でどうにかしないといけないそんな絶望的な現実。自分の無力さとどうしよもない怖さで泣きそうになっていた。しかし男の人は無抵抗なのをいいことにスカートの中に手を入れてきた。


(やだ…誰か、助けてよ…)


「こ、この人痴漢です!」


少しの揺れともうすぐ駅に着くというアナウンスの後に後ろから男の人がそう言った。その声に周りの人達も視線を向ける。


手を捕まえ上げていたのだがその手は明らかにだった。


「え!?私!?」


女性が驚いた声を上げそれに気づいた男の人も同じような声で


「え!?あ、あれ!?す、すみません!」


と言った。そして私を触っていた手はいつの間にか無くなっていて到着した駅に降りていた。逃げられたということよりも開放されたという安心感が勝っていた。


女性と男の人もその駅で降りその人は深深と頭を下げていた。少し聞こえてきたのは揺れで捕まえるはずの手ではない女性の手を掴んでしまったと。傍から見れば言い訳にしか聞こえないそんな言葉。本当に痴漢されていた人がいるかも分からない女性にとっては信じ難いことで。


助けてもらったんだからお礼だけでもと向かおうとしたがまだ恐怖が抜けきっておらず震えた足は中々動いてくれなかった。


扉は閉まってしまい次の駅に向かって走り出してしまう。どんな人か見るとその男の人は私の同じ学校の制服を着ていた。


(学校で会えるかな…)


なんて少し思ったのだった。


そして乗り換え駅に着き、次の電車では女性専用車に乗ることにした。周りも少しずつ同じ制服を着ている人が増え少しずつ心に余裕が出てきた。とはいえ怖かったことには変わりなく男の人が怖い。それでも助けてくれた彼のことはとても気になっていて。結局学校に着くまで彼のことをずっと考えてしまっていた。


学校に着いて色々な人に声をかけられた。それでも頭では彼のことを考えてしまって。少し的外れな返事をしてしまうこともあった。なんだか少し申し訳なかったなぁ…


結局入学式の日は見つけることが出来ず終わってしまった。しかし後日「電車で降りる駅を間違えて入学式を遅刻したやつがいる」という噂を聞きもしかしてと思い昨日できた友達の陽葵ひなたに教えてもらい噂の人がいる教室に向かい覗くとあの人がいた。名前は深山あさひというらしい。


(仲良くなりたいな…)


そう思った。でもずっと動き出せず一年が過ぎてしまった。クラス違うかったから!同じだったらできてたから!


…こほん。切り替えて…私は深山君が好き。きっとこれは恋だ。彼に私を知ってほしい、彼を知りたい。そしていつか彼と結ばれたならきっと幸せだろうな。だから私は…


「隣いい?」


一歩踏み出すんだ!

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