学園の完璧なマドンナの裏の顔
@cucumber90960
第一話 oddball everyday life
高校二年生、最初でも最後でもないこの年は最も緩みやすい。友達を作ることに最初は頑張っていたであろう人達も今ではグループを確立して固まって動いている。最初は頑張ろうと勉強をしていた人達は今どれくらい継続できているだろうか。間の時期はどうしても緩くなってしまうものだ。
僕もその中の一人だ。しかし残念ながら友人と呼べるような関係の人間はいない。なので賑やかな教室の中空いている席を見つけ座る。この学校の少し変わっている部分は始業式など以外座席に指定がないことだ。なのでいい席を取るために朝早くに登校するような人もいる。多くの人は友人同士近くに座ることがほとん
どだ。しかし授業内の私語には厳しく授業などに影響はない。
「あの…隣いい?」
声の聞こえた方を振り向くと綺麗なブロンドヘアの女の子が立っていた。身長は女の人では高めでスタイルがいい。顔も全体的に整っていて俗に言う可愛い女子高生だ。そんな彼女に声をかけられ少し戸惑っていた。
「あ、ダメなら大丈夫だよ」
「えっと…どうぞ」
とりあえずダメな理由もないので了承の意を返すと少し嬉しそうに「ありがと」とはにかんで席に座った。友達が近いからかなと思ったが案の定周りの人と話していた。ただ少しこっちをちらっと見ている ような気がしたが流石に考えすぎだと思いスマホを眺める。
一限目が始まり騒がしかった教室も驚くほど静かになった。しかし休み時間になれば同じように騒がしい教室に戻る。その繰り返しであっという間に昼休みを迎えた。教室で1人で食べるのもいいが流石にこの空間で食べるのは気が引けたので裏庭のあまり人の居ない場所に向かう。ここは一年生の時見つけた穴場の旧校舎の階段だ。今までほとんど人は来たことがないし汚い場所でもない。ぼっち飯を食べるには最適な場所だ。いつも通り先客はいないようだ。
さっき購買で買ったパンを一つ手に持ちかじりつこうとすると壁からひょこっと顔が出てきた。このとき思ったことは一つ。人ってホントに驚くと声出ないだ。
「あ、あれどうしたの?」
いやこっちのセリフすぎるのだが…第一こんな美少女と接点なんて一つもないはずだ。
「えっと…一緒にご飯食べたいなぁと思って…」
なにこの子、今日初めて会ったけど可愛いかよ。
「いいけど…」
「やった!ありがと」
ちょこんと自然に真横に座ってくる。そんな彼女に戸惑っていると不思議そうに「食べないの?」と聞いてきた。誰のせいだと思ってるんだ…
「えっと…名前…聞いてもいい…?」
「え?」
今度は彼女は驚いた顔をして少し考え「そうだよね」と小さな声で呟いたが何のことなのか分からなかった。
「私は
聞いたことのある名前の響きに納得がいった。この渡良瀬美月は学校内で最も人気と言われている所謂学校のマドンナだ。人付き合いがなさすぎるため名前は聞いたことがあるのに顔を知らないという特殊
なことになってしまった。って…
「なんで僕の名前を…」
そう。別に自己紹介をしたわけでも有名人でもない俺の名前を知っているんだ。まさか…
「超能力者…?」
「ふふっ。そうかもね」
彼女、渡良瀬は楽しそうに笑った。口元を手で隠す仕草も渡良瀬がすると絵になるものだ。
「えっと…渡良瀬、さんは何でここに…?」
「さっき言ったでしょ?一緒に食べたいから!あと呼び捨てでいいよ?なんなら美月って呼んでくれても…」
「それは無理かも」
それは色々な人を敵に回してしまうような気がした。特に男子に。
「えっとそうじゃなくてなんで一緒に食べたいの…?」
この疑問も至極当然だと思う。彼女は学校のマドンナだ。彼女と食べたい人も少なくないはずだ。それなのにクラスの中でも全く目立たない俗にいうぼっちである俺なんかと。
「仲良くなりたいから…じゃダメかな」
渡良瀬美月に上目遣いで言われて断ることのできる男はいるのだろうか、いやいないな。
「ダメじゃないけど…」
「ありがと!」
鼻歌を歌いながら嬉しそうに弁当の卵焼きを頬張る。何が嬉しいのか分からないが。そんな風に見ていると視線に気づいたのか「食べる?」と卵焼きを差し出してきた。
「これ自信作なんだ!はい、あーん」
なにこれ夢?昨日まで関わりのなかった学校のマドンナにあーんされているなんてどこのラブコメだよ。
「さすがに悪いよ」
やんわりと断ると唇を尖らせ無理やり口に入れられた。口の中にあまじょっぱい味が広がった。
「美味い…」
自然と漏れてしまった言葉にはっと隣の渡良瀬を見るとぱあっと輝いた表情をしていたと思ったら今度は安堵したような表情に変わった。表情豊かだな。
「よかったぁ…不安で仕方なかったよぉ」
その言い方はなんだか予め僕のために作ってきたようなそんな意味合いを含んでいるように感じた。
その後は特に何か話すわけでもなくお互い食べ終え微妙な空気の中渡良瀬のスマホのバイブ音が響いた。
「あ、もうそろそろ行かないと。じゃあまたね深山君っ!」
小走りで去っていく渡良瀬の背中を見ながら「なんだったんだ」と呟いた。
少し後に僕も教室に戻るとやはり隣の席には渡良瀬が座っていた。だが午後の授業が始まっても特に何ともなくHRも終わり部活のない生徒が一斉に帰宅する。僕も帰宅部ではあるが人混みはあまり好きではないので少し間を空け、教室を後にする。下駄箱で靴を履き替え最寄り駅まで音楽を聴きながら歩く。
歩いてる時に少し視線を感じたように思ったがそんなわけが無いと思い気にしなかった。
家に帰り今日あったことを思い返す。いつもと少しだけ違うような大きく違うようなそんな一日だった。しかしきっと明日からは今までと変わらない日常に戻るだろう。そう思っていたのだが渡良瀬は俺の考えに反してそれから毎日近くに座りお昼を共に(勝手に)するようになった。一か月を待たずにクラスの誰かに見られ『あの渡良瀬が地味な男子と飯を食べている』と噂になってしまっていた。さらば日常。
しかし特に何か話すわけでもなく同じような時間が過ぎ気づけば夏休みが近ずいてきた。それにつれて渡良瀬がソワソワしだしているように感じる。スマホと俺の顔を交互に何度もチラチラと見たりと謎の行動も取り出したのだ。今日は特に視線を感じやすい。というかガン見されてる。流石にこちらもそこまで見られていると落ち着かないので声をかけてみる。
「えっと…俺何かしたかな…?」
渡良瀬の方に目を向けると慌てた様子で口をもごもごさせていた。
「あ、あの…良かったら…その…」
スマホとこちらを数回交互に見て決心したようにこちらを向いてスマホを差し出してきた。その画面に目をやるとLINEのQRコードが映されていた。
「その…LINE交換しない…?」
普段彼女が友達と話している姿よりずいぶんと違い弱弱しい声と頬を朱色に染めている彼女の姿に目を奪われていた。普段とのギャップがあるからだろうか今の彼女に意識を持っていかれなんでこんなにも照れているのかそんなことを全く考えてもいなかった。
「えっと…ダメかな…」
凄く上目遣いでこっちを見てくるナニコレラブコメ?
「あ、あぁ、うんいいよ」
はっと我に返り自分のスマホを取り出しQRコードを読み取る。画面に出てきたのは『Mituki』という名前に渡良瀬と大型犬が映ったアイコンが表示され追加ボタンを押す。
「深山君、ありがとっ!」
そう言いながらスマホを胸に抱えている彼女の顔は玩具を買ってもらった子供のように無邪気で見ているとこっちまで嬉しい気持ちになる。
そしてふとこの1ヶ月のこと思い返し一つ疑問があった。
「渡良瀬もしかして最近ソワソワしてたのって…」
「ギクッ…」
それほんとに言う人いるんだと心の中で苦笑する。
「そ、そうだよ!せ、せっかく話せるようになったのに夏休み何も無いの嫌だから…」
尻つぼみに小さくなって行く声とそれに比例するように顔は赤くなっていった。
「…ぷっ」
渡良瀬はクラスではまさに「人気者」だった。女子はもちろん男子も下心あるなしかは置いといて彼女の周りにはいつも人がいた。基本いつでも笑顔で正直俺とは違う世界にいるようなそんなイメージがあった。しかし俺の前にいる彼女は何というか普段とは全く違ってそんな彼女の姿に吹き出してしまった。
「ちょ、ちょっと!今笑ったよね!?」
「ごめんごめん」
「むーいいけど…なんか馬鹿にされた気がする…」
頬を膨らませ一瞬拗ねたような様子だったがスマホに目を向け今度は頬を緩め指を動かしている。ぶーっとポケットに直したスマホが振動した。画面には「Mitukiからメッセージが届きました」という通知だった。ロックを解除しメッセージを表示すると「よろしくねっ!」というメッセージと敬礼をしている猫のスタンプが送られていた。横にいる彼女に目を向けるとスマホとこちらをちらちらとみていた。笑いそうになるのを堪えスマホに視点を戻し「こちらこそ」とだけ返し、もう一度彼女の方を見ると
「よろしくねっ」
そういう渡良瀬の笑顔はクラスで笑っている時よりも素敵に感じられた。そして「もしかしたら渡良瀬は俺の事を好きなのではないか」なんてとんでもない自惚れた考えがよぎったがすぐにそんな有り得ない考えを排除する。
こうしてモブとマドンナの普通じゃない日常がスタートした
学園の完璧なマドンナの裏の顔 @cucumber90960
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