第2話

「───⋯⋯やあ、迷える森の子羊くん」

「⋯⋯は?」


 待って、ここはどこ⋯⋯?

 え、僕、死んだんじゃないの?


「ここは天界へ行く扉の前だ」


 ⋯⋯この扉が、天界への扉⋯⋯。確かに、物凄く神々しい。


「でも君は⋯⋯地界にいてもらう」

「っ、え、なんで」

「⋯⋯」


 どうして、こいつは答えないんだ。


「ああ、私は死神。ここの門番をしている」


 しに、がみ。もちろん、その単語を聞いたことはある。でも⋯⋯本当に存在していたなんて。冷や汗が出る。


「そんな怖がらなくていい。私は、別に君を⋯⋯ライをどうにかするつもりではない」


 ホッとしたと同時に気になる。


「ライ?」

「君の名前⋯⋯××××から取っただけだ」

「ふーん」


 ⋯⋯死神もあだ名作るのかな。


「⋯⋯では、本題に入る。

 君は、さっきもいったが、地界に居てもらう」

「どうしてっ」

「⋯⋯君に心残りなことがあるからだ」


 心残り⋯⋯。


「あるだろう?」

「まあ⋯⋯そりゃあ」


 でも、逆に心残り無しで死んでいく人っているの?


「だからだ。その心残りを、心残りじゃなくしてこい。そうしたら、この門を通す」


 心残りじゃなくするって⋯⋯難しいなあ。


「それとあと2つ。現世にいる人達の記憶から、ライの記憶は、心残りなことを終わらせるまで無くなる。

 ああ、もちろん、終わらせたら戻る。それに、終わらせたあとは、それをしている間も、ライのことを覚えていたという記憶に塗り変わる。そこは安心してくれていい」


 安心って⋯⋯。無茶苦茶だな、これ。

 なんでこんなことしなきゃいけないの⋯⋯? 心残りが無くならなかったら? 僕は存在が無いまま?


「そして、最後。心残りなことに関わる重要な相手には霊感の有無に関わらず姿が見える」


『難しいな。ただ、これを乗り越えてみてほしい。それだけだ』と付け足されたけれど、ぜんっぜんそれだけじゃない。

 ⋯⋯僕の心残りは⋯⋯きっと、アレだから。難しい。

 だって、相手からしたら『はじめまして』なんだよ? その幽霊と、自分に関する、覚えていない心残りを解決しなきゃいけない。

 ⋯⋯無理だ、こんなの。でも、だからといって、存在が無いままなんて⋯⋯嫌だ。


「まあ、頑張ってくれ。1週間後にまた、ここに呼ぶ。では」


 え!? 1週間後に? 頑張れって、え!?

 ⋯⋯と思っていると、急に目眩がして倒れる。

 そして⋯⋯僕は、学校にいた。

 目の前には、最後まで病室で涙を流してくれていた幼馴染が、いた。

 僕のことを覚えていないと分かっていても、もう、声をかけずにはいられなかった。


「こんにちは」


 ───ここから、僕の幽霊ライフはスタートした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る