第46話 野球少年と夢からの目覚め
少しずつ、自分の分岐路となった瞬間の光景が脳裏にフラッシュバックしてくる。
あの日。
俺が野球を辞める事を選択したあの日。
そしてその時の事を思い出して、いくつかだけ安堵した事があった。
……先輩の事は恨んでいない。
不可抗力だった。
そしてその不可抗力の先に有った5ヶ月間の、楽しかったという記憶と感情は本物だった。
それは間違いない。
だけど……安堵できたのはそれだけで。
「け、圭一郎……君?」
果たして心配するように先輩にそう声をかけられた俺は、一体どんな表情を浮かべていたのだろう?
間違いなく、良い物では無かった筈だ。
それが良い物で有ったなら、気の利いた言葉の一つや二つ言えた筈だから。
……そんな事は言えなかったから。
「……すみません、先輩。今日のところは少し、一人にさせてください」
そう言って財布から此処の代金を出し、テーブルに置いて……出入り口に足取りが向いた。
「……」
そんな俺に、先輩は何も言わなかった。
言えなかっただけなのかもしれないけれど、とにかく今はそれが有り難かった。
先輩が何も悪くないのは分かっている。
先輩に対しても、この五カ月の文芸部としての活動にも悪印象なんて物は無い。
それでも立ち止まって話し続けたら……先輩に碌でもない言葉を浴びせてしまうかもしれないと思ったから。
止められる事無く一人になれて良かった。
そしてカラオケ屋を出て帰路に付く。
一人になれたからこそ、徐々に自分だけの事に意識を向けられるようになってきた。
俺と、野球の事について。
……例え惰性で向き合っていたとしても、俺にとって野球は捨ててしまっていい物じゃなかった。
実際に一度離れた今だからこそ、それは強く思える。
だからこそちゃんと考えないといけない。
……これから俺がどうするべきなのかを。
これから一体どうしていきたいのかを。
悔いのない選択をする為に。
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