第5話 陰キャ先輩とおまじない 下
流石に理解している。
再び催眠アプリを手にそんな事を言ってくる先輩が、本気で効くと思っていない事は。
だから先輩の言葉を借りれば、きっとそれはおまじないだ。
退室しようとした俺を引き留めた時と同じように、そうする事で想いが届けばと、そういう事なのかもしれない。
そしてそれが届いたか否かと聞かれれば……きっと届いているのだろう。
「きょ、今日は本、読んでもらうだけだったけど……この先、感想言い合ったり……書いたり、部誌作ったり。きっと楽しい……だから……」
「ちょっと考えてみます。絶対じゃないんであまり期待はしないで欲しいんですけど」
何せ文芸部への入部を前向きに検討している自分が居たわけだから。
端から見ればそれこそ催眠アプリによる催眠にでもかかったように見えるかもしれない。
直前まで俺は確かに文芸部に入るつもりは無かったのだから。
だけど一呼吸置いて自分の感情を紐解いていけば、何も不思議な事は無いのだと思える。
元々、折角頂いた強豪校からの推薦を断って今が有るんだ。
その時点できっとどうしようもなく俺の野球に対するモチベーションは壊れかけていて、その後から今に至るまでの野球との向き合い方は惰性といった感じだったのだろう。
何かしらの切っ掛けが無ければ緩やかに続く惰性的な活動。
姉貴の面倒な頼みが有ったとはいえ、そんな理由を付けて大事な見学初日に真っ先に野球部へと向かわなかったのも、きっとそういう事なのだろう。
そして先輩からの勧誘が、俺に取ってはその切っ掛けになったのだと思う。
実際悪い時間じゃ無かった。
楽しかった。
こういう時間の過ごし方もアリだと思った。
そして目の前の白井陽向という可愛いくて良くも悪くも面白い先輩と、もう少し関わっていたいと思ったのも事実だ。
「う、うん……もしよかったらで良いから……待ってる」
光が差し込んだような明るい笑みを浮かべながらそう言う先輩と、もう少し関わっていたいと思ったのも事実だ。
そういう人から、数合わせとはいえ求められているのは悪くない。
というよりきっと、これが良い。
だからきっと、これで良い。
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