第2話 陰キャ先輩と催眠アプリ

「え、あ、効いた……効いた!? え、なんで、んん!?」


 俺が戻って来た事により先輩はとんでもなく困惑した様子を見せる。

 一体何が効いたのかは良く分からないが、唯一分かっている人にそこまで困惑されると困るんだが。

 というかもしかして、最初に見た奇行の際に見ていたのもあの画面だったりするのだろうか。

 あの自己暗示でもするみたいな…………暗示か。


 効いたって事はこの人もしかして俺に催眠術でもかけようとしてた?

 ……いや、流石にそんな馬鹿みたいな事はしてないんじゃないかな。

 姉貴なら悪ふざけでやりかねないけど。

 ……いやでもこの人冷静に考えたら、姉貴の後輩なんだよな。


 ま、とりあえず色々気になるし答え合わせはしておくか。


「あの、先輩。効いたっていうのは? あとスマホに映っていたさっきの謎画面って……」


「いや、これはその……えっと」


「ちなみに俺が部室来た時にやってた事と関係あります?」


「うへッ!? き、キミ! み、見なかった事にするって……言った!」


「今の流れで見なかった事にって、ちょっと無理ありません?」


「…………無理かも」


 素直だ。

 そんなシンプルな感想を抱きながら、近くの空いた椅子に腰かける。


「で、結局何なんですか? 釈明しないと俺の中の先輩が自他共に向けて催眠術をかけてる変な人になっちゃいますよ」


「……」


「……」


「……う、ウチ……変な人だけど変な人じゃないから……」


「変な人だったァッ!」


 この人やっぱり姉貴の後輩だぁッ!


「ち、ちが、違くて…………これ、おまじないみたいな物、だから……本当にかかるなんて、お花畑な事、考えてない」


 いやまあ本気だろうとなかろうと、ちょっと変な人ではあるんだけども。


「で、かからない筈なのに俺が戻ってきてビックリしたと」


「……うん。ほ、本当にかかって、ビックリ、した」


 え、まさかこの人俺が本当に催眠術にかかったと思ってる?

 えぇ……。


「あの、先輩。かかって無いですから。俺が此処に座ってるの凄く正当な理由ですから」


「せ、正当な理由?」


「姉貴が色々と迷惑をかけたと思うんで、見学位はしていくのが筋かなと」


「う、うん! 正当だ! せ、正当性がある!」


 その正当性は否定して欲しかった。


「とにかく、俺は催眠術なんかにかかってないです」


「そ、そうか……良かった」


 安堵するように先輩は息を吐く。


「かからない方が良いんですか?」


「う、うん……だって人に、め、迷惑がかかる」


 変な人だけどまともな人だなぁ……なんか一行で矛盾してね?


「だ、だからキミに向けたのも、その……そうなったら良いなっておまじないで」


「まあ分かりましたよ。とにかく俺には催眠術も迷惑はかかってないで」


「そ、そうか……」


 ほっとするように息を吐く先輩。

 そんな先輩に問いかける。


「ちなみに自己暗示って意味では、効果ありました?」


「ど、どうだろ……今日、は、初めて使ったから……」


「そうなんですか?」


「新入生と顔合わせなきゃって思ったら、うまくやれるか、ふ、不安で……そしたら卒業前に赤羽せ、先輩が対人スキル上げる為にって……催眠アプリインストールしてくれたの、お、思い出して」


 元凶あの馬鹿かよ。

 変な奴だしまともじゃねえなぁ!

 よし、今回は矛盾してない……いやさせてくれ頼むから。


「ど、どうだろ……効果あった、かな?」


「それは分からないですけど、ちゃんと最低限コミュニケーション取れてますよ」


 ……多分。意思疎通は取れてるし。

 そしてそれを聞くと、少しドヤ顔を浮かべて先輩は言う。


「の、登り始めた……コミュ強……リア充への道……」


 だいぶ果てしない道のりだとは思うけど、本人がそれで良いと思うならもうそれで良いんじゃないかな。


 そしてコミュ強リア充レベルZランク(推定)の先輩は小さく咳払いしてから言う。


「お、弟君。き、キミ名前は?」


「赤羽です」


「し、知ってる……でもそれじゃ、先輩と被るから、な、名前……」


「圭一郎です。赤羽圭一郎あかばけいいちろう


「じゃ、じゃあ圭一郎君、だな」


 姉貴の存在があるからとはいえ距離感の詰め方えぐぅ……。

 まあ良いけど、悪い気はしないし。


「う、ウチは白井陽向しらいひなた。こ、これからよろしく」


「よろしくお願いします」


 まあこれからよろしくと言っても、俺はあくまで色々有って今日文芸部を見学しているだけで、入るつもりは無いんだけど。

 そしてあくまで勧誘する気でいるであろう、白井先輩は両手を握って気合を入れうように言う。


「じゃ、じゃあそろそろ……ぶ、文芸部らしい活動と、その見学……しよう。今のままじゃ、催眠術研究会って感じ……だし」


 なんかそれ面白そうだな。

 まあ研究もなにも、そんなのある筈無いんだけど。


 ……とにかくこうして文芸部の活動と俺の部活動見学初日がスタートしたのだった。

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