第5話 過去1週間の捜査日誌

12月3日 火曜日 先勝

 マル害櫛一郎が足を運んだという有力情報を得て、現場付近のソープランドを訪問。20代のソープ嬢3人が出勤しており、突然の警察の来訪に何か違法行為があったのではと不安顔を浮かべた。代わりにオーナーの男性、萬城目大亮まんじょうめ・だいすけ41歳が、3人を守るように前に立って供述を行った。

 マル害は、以前は月に一度程度だったが、数週間前から足繁く来店するようになった。満代みつよ20歳をいたく気に入って、11月11日から17日まで毎日通い、満代が休みだった2日間を除き5回指名した。満代本人からも事情を聞くと、背中を流す間に話をするのが好きで、複数のオプションサービスも利用。「また来週来る」と言っていたが、17日を最後に姿を見ていないという。

 その後の調査により、満代は店のオーナー大亮の舎弟、萬城目翔まんじょうめ・しょう23歳と同棲中と判明した。


12月4日 水曜日 友引

 マル害が22日にソープに行くという情報を得ていたが、事実と異なるため、もう一つの夜の店キャバクラでも話を聞いた。18歳から31歳までの女性キャスト6人が出勤しており、営業の邪魔にならないよう1人ずつ裏で話を聞いた。

 全員マル害と面識があり、「急に金回りが良くなった」「浴びるように酒を注文した」と口を揃えた。キャスト全員を集めて酒を振舞い、高級酒のボトルキープもあるという。22日の来店記録はなかった。

 キャストの1人、千鶴ちづ29歳からは、月初に古物商で何かを売却したようだ、との情報を得た。


12月7日 土曜日 大安

 マル害の勤務していた火葬場を訪問。事件前、10月から11月の仕事内容と、特別ボーナスや臨時収入があったかどうかを確認した。収入に関しては冬のボーナスの前で、従来通りの給与のみ。月収は手取り29万円、銀行でデータ照会し裏を取った。ローンと各種支払いの引き落とし残高以外、ほぼ全額を毎月引き下ろしており、貯蓄はなし。遊興に使える金額は多くはない。

 顧客名簿の中に萬城目紳吉の名前もあった。11月1日の仏滅に火葬を行っており、マル害と2人で対応に当たった奥寺和彦おくでら・かずひこ35歳から話を聞いた。

 その日の事は、印象的でよく覚えていた。遺体には必ず複数人が付き従い、何かおかしな事をしないかと目を光らせ、火葬中もずっと扉の前に立っていた。火葬の直前、全員泣きながら「親父!」などと口々に叫び、分厚い札束をポンポン棺の上に放り投げていたという。

 備考欄には『体内の金属は不要』との記載。ステンレス製のステープラー簡易縫合用ホッチキスや、チタン製のボルトが骨に入っていると、燃え残るのだそうだ。


12月8日 日曜日 赤口

 古物商『鶴亀屋つるかめや』を訪問。店主の千代鶴建一ちよづる・けんいち55歳は、データを照合した上で「間違いなく11月5日に買取を行った」と証言した。内訳は金が140グラム。全て20金で、査定額は169万4140円。即日現金で支払ったという。

 現物はすぐ本州の金属加工場へ送られ、手元に残っていなかった。マル害の臨時収入を特定出来た。

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