うろのへび
灯村秋夜(とうむら・しゅうや)
あ、じゃあ俺もヤバい土地の話するわ。近所のおっちゃんから聞いて「ヤバくね?」ってずっと思ってて、見に行ったらガチだったからさ。見に行ったっつっても、入ってない。あそこ入ったら帰ってこられんから。
タイトル? そー言われてもなぁ、おおげさなん思いつかんけど。ウロ……おっちゃんが言ってたやつ。「うろのへび」、かなぁ。
そのおっちゃん……Jさんっつー人なんだけどさ、その話はおっちゃんの伯父さんが亡くなったときが発端らしい、って聞いてる。なんかストーリー上手く運びすぎっつーかさ、きれいに進みすぎな気がすっから、ちょっと盛ってるかもしれんわ。そんで、おっちゃんは伯父さんと仲良しだったし、遺族が奥さん一人だったんで、遺品整理とか手伝ってたらしい。書斎ってほどじゃないけど、いくつか本棚に思い出あるもん入れてたんで、そういうのも片付ける方向だったんだけどさ。
なんか、きったねぇ茶色い何か……ヤニみたいなもんがさ、アルバムとか入れてる棚から流れ出てたんだってさ。それが何かってことだったんだけど、どうやら母校の卒業アルバムが溶けて、そのヤニに変わってたんだ、って話で。何言ってんのかわかんねぇんだけどさ、マジでそうだったんだって。証拠とか別にないけど、そうなんだろうな。いや、だってあそこってアレだしさ。
そこから、なんか年寄りが異様に死にまくって……それでさ、共通点。オカ研ならわかるよな? そうなんだよ、全員の家であのヤニが見つかってんの。あれが死因かって話も出たんだけど、毒とか薬とかじゃなかったんだと。タールとかニコチン? だっけ、なんかそういう危ないものじゃなかったって話だった。
紙だった。
いやでもさ、紙って溶けないだろ? 茶色いべたべたになって流れ出すなんて、そんなこと起きるわけねーじゃん。おっちゃんが紙が燃えたらどうこうって言ってたけど、結局「あんなことにはならない」って結論で終わってた。でも、これで終わんなかったんだな、これが。
母校……■■高等学校? だっけなぁ。五十年くらい前にああなったから、ほぼ知ってる人いなかったんだけど、その学校がとつぜん崩落した。夜のうちのことだったから、何が起きたんだか分かる人がぜんぜんいなかったんだけど、調査するうちにまたあれが……ヤニが見つかったんだわ。どこから出てきたんだか、あのヤニがある年の学校とその関係者を全員呪ったんだ、とかいう話になった。
あの年の卒業アルバムが全部なくなって、いったい何が映ってたのかって話になったんだけどさぁ。その年になんかトラブルあったとか、卒業生がマズいことしたとかも別になくて、なんもねぇの。
でも、めっちゃ偶然の出来事で真相っぽいものが分かったんだよ。それがさ、地図アプリの撮影。最初期のやつから何回目かの撮影に車が来てて、衛星写真も更新された。そんで、ネットに興味持ったやつって地元の地図とかも見てみるらしくてさ。崩落した学校も当然映ってて、……「穴」。Jさん、じゃなくておっちゃんは「ウロ」って言ってたんだけど、ウロって木に空いてる穴のことだよな? あ、違う? ……おー、そういう意味ね。さすが。
ひとつだけ残ってた記録によると、なんかの用具小屋だったらしい場所なんだけどさ。ある年にそこでなんかあったらしくて、誰か死んだらしい。そんで、その年からちょうど一年後に卒業した同級生たちが、あのヤニに呪われたんだって話だった。「誰か」……がいったい誰なのか、それがぜんぜん分かんないままで、どんどん事件が大きくなっていった。
学校の建物が崩落したらさ、当然ガレキの撤去とか来るじゃん? かなり進んだとこ、あのウロあたりで作業をいったん中断して重機置いて、その日は帰ったんだと。そんで次の日に来てみたら、クレーン? じゃねえわ、あのほら、バックホウ……そう、ショベルカー! ごめんごめん、おっちゃんがそっち詳しくてさ。混ざったわ。あれが横倒しになってウロの方に引っ張られた感じで、食いちぎった痕が残ってたらしい。
監視カメラも仕掛けられたんだけど、……「腐ってた」って言ってた。カメラが腐るって言われてもさ、意味わからんよな? いや、けっこう昔だけど、なおさら腐るような素材なんか使ってないしさ。あの穴から出てきて、引っ張って食いちぎるなんか……「何か」、生き物か化け物か、怨霊とかコウジン? とか……そういう土地なんだってことになった。だから、あそこのガレキは放置で、ってことになった。
アホが肝試しして二度と帰ってこなかったり、遠巻きに撮影しようとしたやつが死んだりして、けっこう話題になってるからさ。あのあたりに住んでるやつは全員知ってるよ。一人だけ、ギリギリ救急車呼ぶまで間に合ったやつがいて、そいつが言ってたのがさ、「髪の毛のある蛇」って。ほかには情報ないから、それ以外なんもわからん。
あそこ行くときはさ、ちゃんと地図見ろよ。あの辺マジでなんもないから分かる。あっち方面向いたマンションとかないから、夜にあっち向くのやめろな。
取れないんだよ、あれ。
うろのへび 灯村秋夜(とうむら・しゅうや) @Nou8-Cal7a
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます