第38話

河西ひかるかさい ひかる役の山崎くるみです。今日からよろしくお願いします」


「こちらこそ、こちらからご挨拶に伺うべきでしたのに……。河西暁斗かさい あきと役をさせていただきます、時田です。主演は初めてですが、精一杯務めさせていただきますのでよろしくお願いします」


「私の方こそ、実は映画の主演は初めてなので。ご迷惑をおかけすることもあるかと思いますが、一緒に良い作品を作れたらと思います」



緊張した様子ではあるけれど、落ち着いているし、問題はなさそう。


今日までに顔合わせや、台本読み、打ち合わせで何度か顔も合わせているし、撮影に対して大きな不安はない。


未経験からいきなり役を掴み取るだけあって勘も良さそうだし、お互い高め合いながら撮影に臨んでいけそう。



それなのに、漠然と私の中には焦燥感が居座る。




―――時田には気をつけろ。




先日の夏瑪くんの台詞を反芻する。


あれはいったい、どういう意味なのだろう。



珍しく真剣な様子で放たれた強い警告に引っかかっているのか、求められるものの変化にプレッシャーを感じているだけなのか。



「では、後ほど撮影で」



気は抜かず、切り替える。



人畜無害な好青年にしか見えない時田さんに一礼をして背を向けた。

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