第33話

「無視、すんなよ……」



空気を含んだような声と、わずかに細めた目元がどこか子供っぽい。


さっきまで纏っていた色香は、もう微塵も残っていない。



「拗ねてるの?」


「っるせ」



こうなってしまうと、もう私は夏瑪くんを無下にはできなくなる。


我ながら甘っちょろいなと思う。


簡単に絆されて、無防備に懐に入り込もうなんて。



「人を馬車馬みてーに。働かせすぎ」


「しょうがないでしょ?期待の新人バンドのデビュー年なんだから、どんどん顔を売らなきゃ」


「俺は……、いや……」



屈めていた身を起こした夏瑪くんの中から、ようやく解放される。


髪をくしゃりとかき上げ、短く吐き出した夏瑪くんの溜息が足元の間に落ちる。



しばらく沈思黙考すると、ぐしゃぐしゃと髪を乱しながら「あぁー」と唸る。



音にならなかった言葉のその先は、聞かない。

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