第32話
……まずい。
この距離感は、まずい。
夏瑪くんの長めの前髪がさらり、頬を撫でる。
わずかな動きが、呼吸でさえも、きっかけに変わってしまいそうで体が強張る。
「……!」
そのまま伏せた顔は、項垂れるように私の肩に押しつけられた。
「……な、つめくん?」
「……」
そのままぴくりとも動かない。
沈黙だけが、空間を支配する。
「はぁー……」
何をするでもなく、本当に弱っているみたいに溜息なんて吐くからこっちの調子が狂う。
壁に腕を預けて私を閉じ込めたまま、夏瑪くんが頭を上げた。
「くるみ……」
至近距離で瞳がかち合う。
闇に溶けたその瞳は、どこまでも澄んだ黒色。
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