第31話

「お疲れさまでした。失礼します」



衣装合わせも今後の打ち合わせも終わって、事務所の会議室を出る。


グレイディのメンバーはまだスタジオで曲作りをしているのかな、それともそれぞれ自宅で作業をしているのかな、なんて考えながら化粧室へ向かっていた。



と、音もなく目の前の扉が勢いよく開いて、



「ッ!」



暗闇から伸びてきた腕に、ぐい、と引っ張られる。



あれ、デジャヴ?



つい数日前に似たような状況を体験したような……。


どこかにカメラないのかな。


何かのドッキリだったらいいのに。



なんて脳内だけが忙しく働いているうちに、壁とその人物の間に閉じ込められる。



「……くるみ、」



さっきの傲慢さのカケラもない、弱々しい夏瑪くんの声が歌うように私の名前を口遊む。


潜めた吐息が、すぐ肌の上を甘く滑っていく。



新月の夜を照らすには星明かりでは頼りなく、視覚を奪われた感覚が鋭敏に色香を拾い集める。

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